接ぎ木を用いた花の咲かないキャベツ(Brassica olreacea)種子の生産体系の開発に向けて、強い接ぎ木花成誘導能力をもつダイコン(Raphanus sativus)が有する花成誘導因子を特定すること、および接ぎ木により生産された種子の形質を評価することを目的として研究を行った。 ダイコンのもつ接ぎ木花成誘導因子の特定に向けては、2つのアプローチから研究を進めている。①既知の花成ホルモン遺伝子FTに着目したアプローチ:ダイコン由来のFTがキャベツの花成に与える影響を明らかにするため、ダイコンのFTを発現するキャベツ形質転換体の作出を進めている。複数ダイコン品種のRsFT mRNAの全長CDS配列をクローニングし、ダイコンの品種間ではRsFTのCDSに多型がみられないことを確認した。②接ぎ木花成誘導能力の異なるダイコン品種の交雑分離集団を用いたマッピング解析:接ぎ木試験によるフェノタイピングの精度を向上させるため、接ぎ木によるキャベツの花成誘導に影響する栽培要因を検討した。その結果、台木への種子春化処理期間および穂木の苗齢が接ぎ木による花成誘導に影響することが示唆された。したがって、接ぎ木試験においては台木に対して十分な期間の種子春化処理を行い、苗齢の揃った穂木を用いる必要があると考えられた。確立したフェノタイピング法を用いて、F2集団の花成誘導能力の調査を進めていく。 接ぎ木により生産されたキャベツ種子(品種‘渡辺成功1号’)の形質を調査するため、秋から翌春にかけて圃場で栽培試験を行った。通常の春化処理での花成誘導により生産された種子(対照区)と比較して、いずれの農業形質でも違いはみられなかった。このことから花成誘導法の違いはキャベツの形質に影響を与えず、接ぎ木による花成誘導法を春化処理での花成誘導と同じように、育種および採種に利用できることが示唆された。
|