研究課題/領域番号 |
19J15165
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
後藤 佑太朗 大阪府立大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 光物性理論 / 磁気秩序制御 / 光渦 / 光の軌道角運動量 |
研究実績の概要 |
当該年度において,らせん磁性を持つ金属磁性体CrNb3S6中のCrイオンが有する局在スピンモーメント間の相互作用について,光渦が誘起する新規相互作用として,これまでに確認してきた入射光渦のスカラーポテンシャルの空間勾配による効果(効果A)だけではなく,ベクトルポテンシャルの時間変化による効果(効果B)についても有意であることが新たに分かった.研究計画にはこの効果についての検討は含まれていないが,光渦によるスピンテクスチャの制御の観点で緊急性のある事項として,この課題解決を進めた.従って,効果Bによる相互作用がどのようなスピンテクスチャの変調をもたらすかについて確認した.結果として,効果Bによるスピンテクスチャの変調が効果Aによる変調に加わる形で現れ,効果Aによる変調を阻害することなく,これまで同様に光渦場の強度の空間構造に応じてCrNb3S6の持つらせん状のスピンテクスチャはらせん軸方向に傾斜をすることが分かった.本研究で明らかになった相互作用は,磁気モーメントが円偏光電場による磁場や,外場としての磁場と相互作用したというものではなく,光吸収に伴う微視的な微視的な光と物質との相互作用に基づく相互作用であり,光に軌道角運動量がなければ生じないという点が大変重要であり新しい. また,微視的な光と物質との相互作用に基づく光渦誘起のスピンテクスチャの変調が物性に与える影響として,局在スピンモーメント間に働く相互作用に変化があることから,外場によるスピン波の励起の仕方に変調を与えると考え,その効果について検討している.現状,一般的な線形スピン波(マグノン)の分散関係に加えて光渦誘起の新規相互作用由来の特異な項が現れることを確認している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)らせん磁性を持つ金属磁性体CrNb3S6中のCrイオンが有する局在スピンモーメント間の相互作用について,微視的な光と物質との相互作用に基づく光渦が誘起する相互作用を新たに理論的に明らかにした.特に,入射光渦のスカラーポテンシャルの空間勾配による効果だけではなく,ベクトルポテンシャルの時間変化による効果についても検証した. 研究計画外の緊急性のある検討事項であり,当該研究員の研究目標である,磁気デバイスへの応用まで見据えた「光を用いたスピンテクスチャ制御機構の理論提案」においてより正確で尤もらしい検討ができたと考えている. したがって,研究計画全体としての進捗があったと考える.本成果については,Physical Review Letter誌に投稿中である. (2)非局所的に起こりうるスピン波の励起について,その光渦からの影響について検討中である.微視的な光と物質との相互作用に基づく光渦誘起のスピンテクスチャの変調が物性に与える影響として,一般的な線形スピン波(マグノン)の分散関係に加えて光渦誘起の新規相互作用由来の特異な項が現れることを確認した.本成果については論文を執筆中であり,より詳細な非局所的な光渦誘起のスピン波励起が確認でき次第,論文投稿を行う. (2)は当初の研究計画の一部であり,研究計画のすべてを達成することはできなかった.しかし(1)の検討が生じたことにより,当初の計画どおりではないが,研究全体の目標達成について,概ね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方策としては,光渦誘起のスピン波の励起が非局所的に生じるため,通常の線形スピン波の分散計算のような単純な表式とならず,より複雑な理論解析および数値計算が必要となる.しかし,申請者の受け入れ研究室は,光と物質の非局所応答理論について,多くのノウハウがあり,所属研究グループの一人が特に磁性体の非局所応答理論に取り組んでいるため,その研究者との議論に加え,研究室のノウハウを利用することで解決できると考える.ここでは,光とらせん磁性のトポロジーの結び付きがより具体的な物性応答として現れることが期待される. 実際にスピン波励起の計算ができれば,具体的なデバイス応用のためのパラメータ等の検討を行う.デバイス応用の方向性については,仮定の範疇ではあるが,すでに検討を進めており,本研究で理解される光渦誘起のスピン波励起が有効に利用できるようなシステムに対して,数値計算を行っていく予定である.
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