軌道角運動量を持つ光(光渦)の吸収により誘起される金属キラルヘリ磁性体CrNb3S6中での新たなスピン間相互作用を提案し,局在スピン磁気モーメントの光渦照射による変調を数値計算により確認した.2020年度に本件について1報論文発表を行った.また,光渦誘起のスピン間相互作用が変調する,光渦とキラルヘリ磁性体の結合による非自明なスピン波のエネルギー分散関係に注目した.線形スピン波近似の下導出したマグノン分散関係に分岐する2つの例外点が現れ,その例外点の間では固有値に虚部を持つことを確認した.これは単に一様な外部磁場を印加して現れるものでなく,光渦とスピンが結合し系が複雑化するために出現する.このような例外点の存在は量子スピン系についてはこれまで報告されておらず,非常に重要な結果を得た.本成果はスピン波の制御性を向上させ,多値記憶領域を持つ光スピントロニクス素子としての利用の可能性を広げた.本件について1報の論文発表を予定している. さらに,光渦場をパルス光源としたときの局在スピン磁気モーメント変調の時間変化について調べた.その結果,光渦パルスが通過するのに従い変調が育つように大きくなることを,また照射光渦パルスのキラリティに応じた変調をすることを確認した.本成果は,時空間制御されたパルスビーム形成により,電子スピンと光渦との結合を利用してスピンテクスチャを時空間的に柔軟に制御できる可能性を示した.本件について1報の論文発表を予定している. 本研究は,光渦が誘起するスピンの挙動に関するこれまでに提案のない機構に基づく新奇物理現象の理論提案のみならず,スピントロニクス・マグノニクスデバイス応用に向けた具体的な制御手法についても踏み込んだものである.従って本研究の目的である,磁気デバイスへの応用まで見据えた「光を用いたスピンテクスチャ制御機構の理論提案」について達成したものと考える.
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