研究課題/領域番号 |
19J15248
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
西村 翼 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 酸化反応 / 鉄触媒 / 水 / アルカン / 人工光合成 |
研究実績の概要 |
本研究では新規ジアザポルフィリン触媒を用いた水を酸素源とした触媒的酸化反応の開発を目的とする。光合成は水から取り出した電子を利用し炭水化物を合成するプロセスであり、これをモデルとした人工光合成は盛んに研究されている。その一段階である水の酸化反応では水からの脱プロトン化と電子を取り出す過程を経て金属オキソ錯体が生成し、この二つのオキソ配位子同士が反応しすることで酸素が発生する。本研究ではこのとき生成したオキソ錯体をアルカンの触媒的酸化反応へと展開する。水からのオキソ錯体の生成は中心金属の高いルイス酸性を駆動力としており、これまでにジカチオン性ピリジン鉄錯体が報告されている。一方、N-メチルジアザポルフィリンは従来のポルフィリンにはないモノアニオン性配位子としての性質をもつ。よって、この配位子を用いて三価の鉄錯体とすることで、十分なルイス酸性を得られ、続く水からのオキソ錯体の生成が期待される。今年度は窒素上にメチル基を導入したN-メチルジアザポルフィリン鉄錯体の合成を行い、その電気的性質を分析した。さらに水を酸素源とした触媒的酸化反応を行いその触媒活性を評価した。 ジアザポルフィリンに対しメチルトリフラートを作用させることで目的とする錯体の合成に成功した。また、水との交換を促進するために軸配位子を銀トリフラートを用いて交換した。その単結晶X線構造解析を行ったところ、中心金属に二つのトリフラート配位子がtransに配位した構造をもつことがわかった。この結果は当初の設計通り窒素上への修飾によってジアザポルフィリン配位子がジアニオン性からモノアニオン性に変化していることを示している。さらに、この錯体に水を作用させたところ、軸上に水が配位したアクア錯体の単離にも成功した。今後はこれと犠牲酸化剤とを組み合わせた水を酸素源とする触媒反応へと展開してい予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今研究ではジアザポルフィリンの窒素上への修飾による配位形式の変化が鍵となる。今年度はその一段階目である錯体の合成に成功した。さらに錯体の電気的性質や光学的性質を分析し、詳細な物性を分析した。これらの結果は今後の触媒的酸化反応を設計していく上で重要な情報となる。以上の理由から本研究課題の進捗状況においては概ね順調に進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず得られたアクア錯体の触媒活性の評価を行う。電気化学的手法により水からの余剰電子を処理することで、オキソ錯体を形成し基質と反応させる。この時の触媒電流の度合いから触媒の性能を評価する。この時、溶液の種類、pHの値などの最適化を行うことでオキソ錯体形成の促進を図る。その後、セリウム試薬や白金試薬等を用いて余剰電子をトラップしてアルカンの酸化反応を検討する。また、反応機構に関する知見を得るために重水素試薬を利用してその速度論的同位体効果から律速段階を見積もる。律速段階がオキソ種形成段階の場合にはメチレン鎖の長さを、基質からの水素引き抜き段階の場合はジアザポルフィリンのメゾ位にペンタフルオロ基を導入してオキソ種の反応性を向上させる。一方で、トラップを行わない場合、還元型オキソ錯体のみが形成するが、その反応性についても調査していく。具体的には、還元型オキソ配位子は電子豊富であるのでエポキシドを作用させて求核反応を検討し、オキソアニオンとしての利用を検討する
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