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2019 年度 実績報告書

インド瑜伽行派の基本典籍『瑜伽師地論』における無常説の解明

研究課題

研究課題/領域番号 19J15273
研究機関京都大学

研究代表者

中山 慧輝  京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)

研究期間 (年度) 2019-04-25 – 2021-03-31
キーワード瑜伽行派 / 無常 / 菩薩地 / 声聞地 / 有為の四相 / 摂異門分 / 修行道
研究実績の概要

インド瑜伽行派の基本典籍『瑜伽師地論』を、先行研究に基づいて、最古層に属する (1)「声聞地」(2)「菩薩地」、(3) 前二章を除く古層に属する「本地分」、(4) 経典の解説に関係する「摂釈分」「摂異門分」「摂事分」、(5) 新層に属する「摂決択分」、(6)最新層に属する「摂決択分」に区分し、特に、最古層に属する (1)「声聞地」と (2)「菩薩地」の無常説と、(4)「摂異門分」を中心に進めた。
まず、(1)「声聞地」については、声聞乗の修行道 (出世間道) において、一切存在が瞬間的であることを推理を通して観察する段階から、心が瞬間的であることを推理を通さずに観察するという段階へと無常観察が洗練されていくことを明らかにした。この点については密教研究会学術大会にて口頭発表し、同学会誌に投稿した。また、修行道の構造の前提として問題となる世間道と出世間道の関係について日本印度学仏教学会にて口頭発表し、同学会誌に投稿した。
(2)「菩薩地」については、菩薩の無常観察が説かれる「菩提分品」を梵文写本を用いて校訂し、現代訳語の作成を進めている。これについては、「若手研究者海外挑戦プログラム」でハンブルク大学にて従事し、専門家のもとで読み進めている。その成果に基づいて、(3)「本地分」との関連で、そのうちの「意地」に説かれる有為の四相の解説が「菩薩地」の無常観察と関連することを明らかにした。さらに、その「意地」の該当箇所の議論の文脈を踏襲し展開する (5)「摂決択分」についても検討し、「声聞地」「菩薩地」に説かれる無常説を含む要素を統合してより整理された議論を展開していることを明らかにした。
(4)「摂異門分」については、無常説が関係する箇所のテキスト校訂と現代語訳を行い、解説の対象と思われる経典について、主に『雑阿含経』から同定を試みた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究の基盤となる最古層の(1)「声聞地」と(2)「菩薩地」の無常説に関する研究は、おおよそ予定通りに進行している。(1)「声聞地」の無常説については、今回の口頭発表と学会誌の投稿により、修行道の側面から見た全体の枠組みを明らかにしえた。(2)「菩薩地」については、「菩薩地」に説かれる菩薩の無常観察と、「菩薩地」以降の成立と考えられる (3)「意地」の有為の四相 (生・住・異・滅) 理解との間に関連があることを明らかにした点が前進といえる。有為の四相は、生じたものはやがて滅するというものの存在に対する仏教的な基本姿勢を表し、一見すると修行道に関係しない概念であるため、「菩薩地」の修行道の文脈との関連は本研究でも大きな着眼点となった。一方、「菩薩地」「菩提分品」のテキスト校訂については、若干の遅れが見られる。これはテキスト校訂にあたって、複数の梵文写本と漢訳、チベット語訳を総合的に用いて検討を重ねながら慎重に作業を進めていることによる。写本の読解などの解決すべき問題も少なからず残している。
(4)「摂異門分」に関しては、おおむね予定通りに進んでいる。解説の対象となる経典の特定は参考となる他文献の調査を当初の予定より広範囲に設定して行わなければならないことにより一定の時間を要しているが、より確定的な成果が期待できる。
以上のように、解決すべき問題や当初より労力を要する課題もあるが、全体的な研究の遂行状況とその成果から総合的に判断すると、おおむね順調に進展しているといえる。

今後の研究の推進方策

第二年度は、引き続きハンブルク大学にて研究に従事し (8月まで) 、専門家とともに(2)「菩薩地」のテキスト校訂と現代語訳の完成に取り組む。また、その際、「菩薩地」の内容をより理解するためにチベット語訳のみで残る注釈書『菩薩地解説』も並行して読解する。
(4)「摂異門分」については引き続き解説対象の経典の特定を行うと同時に、該当箇所前後の記述についても同様に進め、「摂異門分」のなかでの文脈に重点を置いて前後の関係を調査する。
これまでに検討することができなかった箇所について、特に (4)「摂事分」と(5)(6)「摂決択分」の検討に入る。「摂事分」は「摂異門分」と密に関係することから読解が不可欠である。(5)(6)「摂決択分」については、特に(1)「声聞地」と(2)「菩薩地」に対応する「声聞地決択」と「菩薩地決択」に焦点を当てて、「本地分」から「摂決択分」への展開が見られるのかについて検討する。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2020 2019

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件)

  • [雑誌論文] Mundane Path and Nirvana in the Sravakabhumi of the Yogacarabhumi: With a Special Focus on its Fourth Chapter2020

    • 著者名/発表者名
      Keiki Nakayama
    • 雑誌名

      Journal of Indian and Buddhist Studies

      巻: 68.3 ページ: 70~73

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 『瑜伽師地論』「声聞地」出世間道における刹那滅観察―了相作意から勝解作意へ―2019

    • 著者名/発表者名
      中山慧輝
    • 雑誌名

      密教文化

      巻: 243 ページ: 11~34

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 梵文和訳『阿毘達磨集論』(4)2019

    • 著者名/発表者名
      那須良彦、加納和雄、李学竹、吉田哲、松下俊英、早島慧、横山剛、高務祐輝、間中充、吹田隆徳、田中裕成、奥野自然、中山慧輝
    • 雑誌名

      インド学チベット学研究

      巻: 23 ページ: 27~74

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Abhisamayalamkaraloka XVIにおける「離一多自性論証」の和訳 (1)―極微論批判を中心に―2019

    • 著者名/発表者名
      間中充、桑月一仁、秦野貴生、道元大成、北山祐誓、中山慧輝
    • 雑誌名

      インド学チベット学研究

      巻: 23 ページ: 119~144

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 『瑜伽師地論』「声聞地」における刹那滅観察2019

    • 著者名/発表者名
      中山慧輝
    • 学会等名
      令和元年度密教研究会学術大会
  • [学会発表] 『瑜伽師地論』「声聞地」における世間道と般涅槃―第四瑜伽処を中心に―2019

    • 著者名/発表者名
      中山慧輝
    • 学会等名
      日本印度学仏教学会第70回学術大会

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公開日: 2021-12-27  

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