研究課題/領域番号 |
19J15290
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
三浦 光平 大阪府立大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 強相関系材料 / 強誘電体 / 光誘起物性 / フォトルミネッセンス測定 / d-d遷移 / 光誘起電流 |
研究実績の概要 |
高感度なTHzセンシングデバイスの構築に向けた強相関系強誘電体の光誘起物性と電子状態の解析について主に取り組んだ。強相関強誘電体は、遷移金属による複雑な電子準位と強誘電性分極によって、可視光においてでも光誘起物性の理解は不十分である。本研究では、強相関系強誘電体YMnO3薄膜を透明基板上にパルスレーザー堆積法を用いて作製し、電気特性、光学特性ならびに光照射時の電気特性の測定に取り組んだ。 光学特性において、フォトルミネッセンス測定を用いることで、その発光特性から電子準位の解明を行った。発光特性から、Mnの原子内遷移、バンド間遷移、遷移金属による磁気秩序に関与した発光を観測できた。特に遷移金属による磁気秩序に関与した発光については、フォトルミネッセンスの励起光波長依存性から、強相関系材料特有の光学遷移であるd-d遷移に対応したエネルギーで励起することで、発光強度が増加する発光を観測した。また、この発光は、磁気秩序が形成する温度であるネール点以下において、指数関数的に増加することが分かった。これらのことは、この発光がマグノンを介した発光であることを示唆している。 光照射時の電気特性については、励起光波長依存性から吸収が小さなエネルギー帯で光誘起電流が増加することがわかった。これはMnの原子内発光で観測された吸収に見えない電子チャネルに起因するものであると考えられる。そのエネルギー帯で励起した電流の温度依存性から、ネール点以下で光誘起電流が指数的に増加していることを観測した。このことは、磁気秩序が形成することでスピンによる熱擾乱が抑制され、電子輸送効率が上がったためであると考えられる。 これらのことから、強相関強誘電体において、光誘起物性と磁気秩序の形成が大きく関わりあっているいることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまで強相関材料の発光特性は準位が複雑なため、多くの議論がなされていなかった。本研究では、複雑な準位に対応して、励起光エネルギーを変化させることで、電子準位の解明を行うことが出来た。本研究では、比較的明瞭なd-d遷移を有している材料で行ったが、本研究での手法や考察は、他の強相関強誘電体に応用できると考えている。また、本研究において明らかにした光誘起物性と磁気秩序の相関は、強相関強誘電体において、THzセンシングでの光励起の電子だけでなくスピンの応用可能性についても展開することが出来る。
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今後の研究の推進方策 |
前年に行った物性評価をもとにデバイス設計を行う。前年は、主に強相関強誘電体の電気・光学特性の評価を行い、電子準位と光励起キャリアについての相関を明らかにした。本年度は、強相関強誘電体と半導体の接合をパルスレーザー堆積によって作製する。作製した強相関強誘電体/半導体接合において、フォトリソグラフィーのマスクを設計し、素子をパターニングし、最も効率的なデバイス構造に落とし込む。デバイスの評価として、外部の研究施設にて、IR~THz波を照射の際のトランジスタのスイッチング特性について、外部電界制御しながら計測していく。このTHz波照射によるON/OFFの切り替え時間や保持時間について評価し、THz波照射によるメモリ書き換え可能性や高感度センシングの特性について検討する。また、デバイス応用に向け、トランジスタをアレイ化させ、その電気的・光学的なメモリ効果についても評価を行う。また、作製した強誘電体トランジスタのパルス電界を用いた伝達・輸送特性の測定からスイッチング特性を評価し、負性容量の発現を観測し、センシングの高感度化に向けた検討を行う。
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