研究課題/領域番号 |
19J15306
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
越田 裕之 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 一酸化窒素 / 近藤共鳴 / 磁性 / STM / 光脱離 |
研究実績の概要 |
(1)CuPc/Au(110)における金属分子界面の構造とLUMOのエネルギーシフト STM観察から,CuPc分子をAu(110)表面に室温で蒸着すると,CuPc分子の直下に2-6個の金原子が挿入された構造を形成することがわかった。このCuPcの電子状態をトンネル分光 (STS)で一分子ずつ調べると,直下の金原子の数が多くなるほど,CuPcのLUMO準位が金属のフェルミ準位に近づく(安定化されている)ことがわかった。このように界面の局所的な構造が分子のエネルギー準位に与える影響を,単一原子分子スケールで明らかにした例はなく,物理的起源を明らかにするために,現在理論計算グループとの連携を進めている。 (2)NO/Au(110)における近藤共鳴の観測 80 KでAu(110)表面にNOを吸着させ,4.5 KでSTM観察を行うと,吸着状態の異なる3種類のNO分子が観察された。これらNO分子の電子状態をSTSで調べると,2種類のNO分子においてゼロバイアス付近に近藤共鳴準位が観測された。これは2種類のNO分子には不対電子が残存しており,スピン偏極していることを示す。加えて,STSスペクトルの探針位置依存性から,NO分子の振動励起と近藤共鳴準位とが強く結合していることが明らかになった。 (3)NO/Au(110)における光脱離反応のSTM観測 NO/Au(110)に可視域の光を照射することで,分子が表面から脱離することをSTM観測から直接捉え,クラスタ依存性,波長依存性,光強度依存性から脱離メカニズムを考察し,反応断面積を算出した。また金探針による断面積の増大を観測し,ラマン顕微分光に必要な電場増強効果を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単分子レベルで光誘起反応や探針増強分光を行うことを目的として,走査トンネル顕微鏡のトンネル接合にレーザーを集光する実験技術を高めてきた。高強度の光を探針直下に集めるためには,数マイクロメーターの精度で位置合わせを行う必要がある。このために,探針からの散乱光を検出すること,およびレーザーの精密な光路調整によりこれを達成した。この技術を用いて,金表面の一酸化窒素の光誘起脱離反応の観測を行った。従来の光脱離反応の研究は表面全体からの脱離反応を観測してきたのに対し,本研究では単分子レベルで反応を観測することで,吸着サイトや凝集効果による分子の光応答の違いを検出することが可能になる。このような個々の分子の環境に依存する光反応性の違いは特異な場で発現する触媒活性と関連しており,その解明に向けた基礎的知見の見込みが得られているため。
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今後の研究の推進方策 |
金表面における一酸化窒素 (NO) の研究から,NOは吸着サイトに依存して磁性を保つ,あるいは消失することを明らかにした。一酸化窒素のスピン分極と金属表面の相互作用は古くから表面科学の課題であったが,今回,局所的な環境でその磁性が変化することを初めて見出した。さらに,このような特徴的な電子状態が,一酸化窒素の光反応特性と関連している可能性があり,今後の課題として検討する。
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