研究課題/領域番号 |
19J15359
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
堀田 貴都 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | 原子層物質 / hBNサンド構造 / AFMナノスクイーズ法 / 層間不純物除去 / 荷電不純物 / 励起子間衝突 |
研究実績の概要 |
当初の計画とは異なり、1.励起子拡散の観測、2.単一カーボンナノチューブをゲート電極に用いた励起子閉じ込めの実現、3.その観測用の高品質試料作製法の開発に従事した。その結果、1および3については、学術論文を投稿中である。2については現在進行中である。以下に3の詳細を記述する。 六方晶窒化ホウ素(hBN)による原子層物質の挟み込みは、原子層物質の本来の性質を観測するために必要不可欠な技術である。しかしその一方で、積層構造作製時に発生する層間不純物(バブル)の発生を完全に抑えることは難しく、測定可能なサイズで不純物を含まない積層構造の作製の歩留まりは未だに悪い。そこで本研究では、バブルフリーな試料作製をより確実にすべく、その手法開発に取り組んだ。 バブル除去にはAFM用の探針を用いて積層構造表面をスイープする手法を用いた。この手法では、探針で積層構造表面を一定の力を印加しながら何度もスイープすることで層間に挟まった不純物が移動し清浄な界面が実現できる。本手法によりバブル除去を試みた結果、バブルのほとんどを除去することができた。一方で、本手法は探針の摩耗もしくは積層構造表面への傷により積層構造表面に荷電不純物を誘起し、原子層物質の光学(荷電励起子生成の促進)および電気伝導特性(キャリア移動度における荷電不純物散乱)に大きく影響を与えることが分かった。そこで、表面誘起される荷電不純物の影響を抑制するべく、数層グラフェンを静電ポテンシャル遮蔽層として用いたG/hBN/MoSe2/hBN積層構造を作製し、探針を用いて層間不純物を取り除いた。極低温における光学測定の結果、前者の試料において観測された荷電不純物由来の光学応答が抑制されたことを確認し、AFM探針から荷電不純物の影響の排除に成功した。さらに、その高品質さに由来した光学応答も確認され、その作製法の開発に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究目的・研究計画とは大きく外れたものの、論文投稿に至る十分な結果が出ており、研究としては期待以上の進展があった。本年度、私は単層MoSe2中における励起子拡散の観測、単一カーボンナノチューブをゲート電極に用いた局所電場印加による励起子の閉じ込めの実現、およびそれら観測を実現するための高品質試料作製法の開発に従事した。励起子拡散については、上記手法により作製した高品質試料を用いて極低温までの系統的な測定を行い、以前のデータより精度の高いデータを得た。この結果については、学術論文にまとめ、現在Physical Review Bに投稿中である。高品質試料作製法開発に関しても、AFMを用いたバブル除去により試料を作製し、特性を評価するごとに得られたデータを丁寧に解析することで、AFM探針より誘起される荷電不純物の影響を解明した。そして、荷電不純物由来の静電ポテンシャル遮蔽層としてグラフェンを用いることで、予想通りその影響を抑制した高品質試料の作製に成功した。さらに、その光学応答から励起子同士の衝突が既存結果に比べ1/1000程度小さな励起光強度下で生じるという興味深い現象が確認された。本結果は上述の通り、論文投稿に向けて準備中であり、投稿前の最終チェックの段階である。試料作製法の確立により今後今までの試料では観測できなかった新奇特性の観測に大いに期待が持てる。また現在、単一カーボンナノチューブを用いた実験を精力的に進めている。当初よりも進捗が遅れているものの、カーボンナノチューブを数十マイクロオーダーの正確さで転写する手法を開発した。今後は、カーボンナノチューブをゲート電極として組み込んだデバイスを作製し、その閉じ込めを実現すべく実験を進めていく予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の核となる単一CNTは、石英基板上に化学気相成長(CVD)法により作製されたものを東京大学の千足准教授・井ノ上助教(丸山・千足研究室)より提供されたものを使用する。まず昨年度で確立した平坦化技術(乾式転写法および層間不純物除去法)および単一CNT用の乾式転写法を組み合わせることで、層間不純物を排除した高品質hBN/MoSe2/hBN積層構造を作製する。作製に成功したCNTを含む積層構造は、電子線リソグラフィーおよび金属蒸着により電気的なコンタクト用の電極を作製し、ゲート電圧印加した光学的な評価を行う。当研究室で組み上げた顕微分光装置を用いて、極低温(10 K)における発光(PL)スペクトルおよび(荷電)励起子発光のみを取り出したPL像を測定することで、単一CNTによるゲート電圧印加の是非を確認する。観測に成功した場合、スペクトルでは閉じ込められた励起子は通常の励起子発光エネルギーよりそのエネルギーが小さくなることから、低エネルギー側にピークが出現、イメージングではCNTの形状に由来して、線状の発光領域が観測されると予想される。また、単一CNTの直径は1 nm程度と細いため、光学イメージングではその回折限界によりその発光領域が約1.3 マイクロメートル程度のボケが発生することが予想される。そのため試料作製の段階で、単一CNT間の距離が600 nm以上離れた孤立したCNTを原子間力顕微鏡により確認した後に、デバイスに組み込む。閉じ込めに成功した後、発光強度の励起光出力依存および励起子拡散などを測定することにより、二次元半導体中に1次元状に閉じ込められた励起子の物性を探索していく。また上記内容は、国際国内問わず学会発表をすることで、本研究をブラッシュアップしていく予定である。
|
備考 |
(1) Exciton diffusion in a hBN-encapsulated monolayer MoSe2 (2) Enhanced exciton-exciton collisions in an ultra-flat monolayer MoSe2 prepared through deterministic flattening 上記論文は、査読付き雑誌に投稿し返答待ちである。
|