研究実績の概要 |
本年度では、昨年度に引き続き1. hBN保護MoSe2における励起子拡散の観測、2. hBN保護原子層物質の高品質試料作製法の開発に関する研究、および3. 単一カーボンナノチューブ(CNT)をゲート電極に用いたMoSe2中荷電励起子の1次元閉じ込めの実現に関する研究に従事した。昨年度で得た1および2に関する結果は、Physical Review B (102, 115424 (2020).)、およびACS Nano (15, 1, 1370-1377 (2021).)へ投稿しアクセプト済みである。3では、1および2で確立した高品質試料作製方法および光学測定技術を用いることで、単一のCNTをゲート電極として用いたhBN保護MoSe2デバイスを作製し、一次元状に閉じ込められた荷電励起子の観測を目指した。本報告では3の詳細について記載する。 まず化学気相成長法により作製された単一CNTをhBN保護MoSe2に組み込んだものを用意し、電子線リソグラフィーおよび金属蒸着により電気的なコンタクト用の電極を作製することで、1次元状にゲート電圧が印加可能な孤立CNT-hBN保護MoSe2からなる1D2Dハイブリット積層構造を作製した。荷電励起子の測定には、当研究室で組み上げた顕微分光装置を用いて、極低温(10 K)における荷電励起子発光のみを取り出したPL像を測定した。CNTゲート電圧を2 Vに印加したところ、印加なしの際には確認できなかった幅約1um程度の線状のコントラストが出現した。この発光像の強度分布を、電磁気学モデルから導出した電場の広がり(30 nm)および発光像の回折限界による広がり(230 nm)を考慮しフィッティングしたところ、実験で得られた発光分布をよく再現できた。この結果は、1次元状への荷電励起子の閉じ込めに成功したことを示している。
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