研究課題
本研究は,膜分離活性汚泥法 (MBR) における新規膜ファウリング制御方法を開発するために,バイオフィルムを形成すると推定される未培養門細菌およびファウラント (膜ファウリング原因物質) のバイオフィルム形成過程中での挙動を解明し,未培養門細菌の集積培養と代謝解明を行う.本年度は,バイオフィルム形成過程における未培養門細菌,膜ファウリング原因物質の挙動を明らかにするために,それぞれを蛍光標識し3次元画像の取得を試みた.我々は,低有機物負荷MBRで発生したバイオフィルムにおいて,ファウリングの発生する膜圧が40 kPaに到達するまでの3段階で膜面を採取した後,それぞれに生細胞と死細胞を蛍光標識するLIVE/DEAD試薬と多糖およびタンパク質を蛍光標識する染色試薬にて処理し,共焦点レーザー顕微鏡にて膜面バイオフィルムの3次元画像を取得した.膜ファウリング初期バイオフィルムでは,死細胞およびタンパク質由来の蛍光が優占しており,低有機物負荷運転に伴い発生した溶菌細胞およびその細胞から放出されたタンパク質がコンディショニングとしてバイオフィルムの素地を形成したと考えられた.中期のバイオフィルムにおいては,生細胞および多糖由来の蛍光が増加しており,初期膜ファウリングで形成されたコンディショニングフィルムに細菌細胞が付着し,マイクロコロニーの形成とバイオフィルムの高次元構造を形成したことが示唆された.後期バイオフィルムでは,生細胞と死細胞由来の蛍光が増加しており,一部の細菌は依然としてバイオフィルムの高次元化を進めている一方で,死滅する細菌も増加していることが示唆された.低有機物負荷運転で発生したバイオフィルム形成はタンパク質によるコンディショニングフィルムの形成,生細菌による多糖の生産に伴うバイオフィルムの高次元構造化,死細胞の優占化という過程を辿るということが明らかとなった.
2: おおむね順調に進展している
MBR法のバイオフィルム形成において,膜ファウリング発生過程で膜ファウリング原因物質および微生物の挙動を詳細に解析した例はほとんどなく,特に実排水を対象にMBR膜上の詳細な解析は皆無である.本年度は,MBR膜上に誘発させたバイオフィルムを経時的に採取し,ファウリング物質および微生物を蛍光標識し共焦点レーザー顕微鏡を用いて解析した.膜ファウリング発生過程におけるバイオフィルム中のタンパク質,多糖類および微生物の挙動が明らかになった.しかしながら,MBR中に原生動物が存在したことで,バイオフィルム中で原生動物の増殖とともに,それらによるバイオフィルム中の細菌の捕食が確認され,バイオフィルム形成細菌の挙動を追跡することが出来なかった.
今後は,MBR中の原生動物を除去するために流入する都市下水をスクリーンニングもしくは抗生物質の添加を行った後に,バイオフィルム形成を誘発させる.本年度までに,発生するバイオフィルムにおいてOD1門細菌の16S rRNAを対象とする蛍光プローブを用いた検出を行ったところ,バイオフィルム内で活性を持った状態で優占化していることが明らかとなった.そこで,膜ファウリング発生過程において,蛍光標識されたOD1門細菌のバイオフィルム中の空間的分布を明らかにし,OD1門細菌のバイオフィルム形成過程における役割を明らかにする.また,上記で得られた結果をOD1門細菌の高度集積培養に応用するとともに,さまざまな微生物と共培養することで増殖が促進もしくは抑制される培養系を構築する.これらの情報から,MBR装置のバイオフィルム形成細菌の増殖抑制因子の解明を実施する予定である.
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Environmental technology
巻: - ページ: 1-9
10.1080/09593330.2019.1694082