研究課題/領域番号 |
19J15369
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
船戸 匠 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | スピントロニクス / スピン流 / 物理学 / 理論 |
研究実績の概要 |
ミクロな角運動量の流れであるスピン流の応用を目指すスピントロニクスにおいて、物体の振動や渦運動などの力学的な運動によるスピン流駆動が研究されている。その背後にある物理的な描像として、電子とともに運動する座標系において現れる有効磁場と電子スピンとの結合(スピン・渦度結合;SVC)や不純物による外因性スピン軌道相互作用(SOI)を介したメカニズムが提案されている。一方で、バンド構造に組み込まれたSOIや表面・界面に存在するSOIなど内因性SOIを介したメカニズムは未だ解明されていない。本研究は内因性SOIを介した力学的なスピン流生成の理論的な解析を目的に進めてきた。 まず、反転対称性の破れた系において存在するラシュバ型SOIを介したメカニズムについて解析を行った。具体的にはラシュバ型SOIを受けている3次元自由電子系において、動的な格子歪みに対するスピン流およびスピン密度の応答を計算した。結果として面内だけでなく面直方向に進むスピン流や面直偏極したスピン密度が現れることが分かった。これは電場駆動では現れない全く新しい応答であり、従来考えられてこなかった新しいスピン流生成メカニズムの存在が期待される。 近年SVCを介した新たなスピン流生成の舞台として、自然酸化銅などの不均質な系における電子のせん断流に伴う渦運動に起因したスピン流生成が研究されている。一方でSOIの効果は含まれていない。そこで不均質系におけるスピン軌道相互作用を介したスピン流生成の理論的な解析を行った。特に外因性SOIに着目し、不均質に分布した不純物によるスピン軌道散乱を受けている自由電子系において電場に対するスピン流およびスピン密度の応答を計算した。得られた結果から、不均質系においても適用可能な一般化スピン拡散方程式を得た。また状況によっては、一様な系に比べて不均質系の方が大きなスピン流が生じうることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画段階ではバンド構造に組み込まれたスピン軌道相互作用(SOI)や表面・界面に存在するSOIを経由した力学的なスピン流生成の解析を考えていた。そのうち後者についてはおおむね順調に進めることができた。具体的には、反転対称性の破れた系において存在するラシュバ型SOIを受けている3次元自由電子系に対して、動的格子歪みに対するスピン流およびスピン密度の応答を線形応答理論に基づいて計算した。結果として、従来考えられてこなかった新しい対称性のスピン流生成があることが分かった。今後、物理的な考察や定量的な評価を行うことで、さらなる理論および実験研究への発展が期待される。当初の研究計画を順調に遂行できていると考えている。 一方で、当該分野における関連研究として、不均質な系における電子のせん断流に伴う渦運動に起因したスピン流生成が研究されている。その理論的な解釈としてスピン・渦度結合が考えられているが、SOIの効果については議論されていない。本研究では不均質系におけるスピン流生成へのSOIの効果について解析を行った。その結果、状況によっては一様な系に比べて不均質系の方が大きなスピン流が生じうることが分かった。当初の研究計画には含まれていない研究内容ではあるが、関連研究へ柔軟に対応し研究を遂行することができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究としてまず現在進行している研究をまとめる。ラシュバ系における力学的スピン流生成について、得られた結果をもとに物理的な考察および定量的な評価を行い、論文の形へまとめる。不均質系におけるスピンホール効果については、得られた一般化スピン拡散方程式を用いて定量的な数値計算を行うことで、より大きなスピン流およびスピン密度が生成される物質系の提案を行う。次に、バンド構造に組み込まれたSOIを介した力学的スピン流生成について解析を行う。まず、モデルとして4d系や5d系に対し動的な格子歪みが印加される場合を考え、摂動ハミルトニアンを導出する。得られたモデルをもとに、格子歪みに対するスピン流およびスピン密度の応答を線形応答理論に基づいて計算する。計算結果の物理的な考察と定量的な評価を行う。以上の内容を論文の形にまとめ、査読付き論文誌へ投稿する。
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