研究課題/領域番号 |
19J15418
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
後藤 啓介 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | デトネーション / 回転デトネーションエンジン / インジェクタ / 冷却 / ロケットシステム |
研究実績の概要 |
申請者はこれまで国内外で次世代の高効率内燃機関として注目されている「回転デトネーションエンジン(Rotating Detonation Engine, RDE)」を用いた推進システムに関する実験研究に取り組んできた.RDEは極超音速で衝撃波を伴い伝播する燃焼波「デトネーション波」を,極めて高い周波数(1~100kHz 程度)で円筒構造の燃焼器内に発生させて推力を取り出すエンジンである.デトネーション波の伝播により,混合促進・化学反応が短距離で完結し,機械的圧縮無しに予混合気を自立圧縮することが可能となり,小型で高性能な宇宙推進エンジンの実現が見込まれる.RDEを用いた革新的な化学推進システム学理の確立という観点における喫緊の課題は①世界に先駆けた宇宙空間(高真空・微小重力環境)でのRDEの性能評価・技術実証,②デトネーション燃焼領域近傍の革新的冷却機構の開発である.2019年度は述べた2つの課題に対し,①についてはRDEのインジェクタ径を変化させて燃焼実験を行った.その結果,インジェクタ上流圧と燃焼室圧との比には点火前の状態と点火後の状態に直線的な相関があり,作動中のインジェクタ圧力損失を設計値をおおよそ見積もることが可能となった.また,圧力損失と比推力のトレードオフ関係も示され,飛行試験におけるインジェクタ径を決定することができた.②については,従来は燃焼室底面のみに備え付けられていたインジェクタ構造から脱却し,RDE外筒部に多数の噴射孔を有する噴射側壁面を配置することで,インジェクタ内部を通過する推進剤流体と壁面との熱交換と,ガス噴射による壁面近傍からの既燃ガスのパージによるアクティブ冷却手法を有する推進剤噴射冷却型単円筒RDEを申請者らは開発した.本研究では,質量流量31 g/sの条件において最大5 sの燃焼実験を実施し,加熱に伴う壁面温度上昇の抑制に成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
宇宙空間(高真空・微小重力環境)でのRDEの性能評価・技術実証については,2019年度の成果によって,実際に飛行試験に用いるRDEの形状を決定することができた.これにより今年度中に飛行試験用のロケットシステムの構築完了が視野に入っており,2021年度の打ち上げに向けプロジェクト全体が重要なフェーズへと進行することができた.また,その過程において,2件の国際会議の発表を行ったほか,1本の論文を投稿中であり,十分な成果を達成したと考える.革新的な冷却機構の開発については,推進剤噴射冷却型単円筒RDEの開発に2019年度に成功しており,これは当初の計画以上の成果である.学会発表,および論文投稿は2020年度に実施予定だが,すでに論文投稿に資する結果を得ていると考えており,大きな進展があったといえるだろう.
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今後の研究の推進方策 |
宇宙空間(高真空・微小重力環境)でのRDE の性能評価・技術実証については,JAXA宇宙科学研究所との共同研究の中で,2021年度に観測ロケットS-520-31号機を用いて実施予定である.今年度は,搭載するエンジンのフライトモデルの構築を完了し,地上試験にてシステム健全性を確認する予定である.一方,革新的冷却機構の開発については,2019年度に大きな進捗があり,従来は燃焼室底面のみに備え付けられていたインジェクタ部をRDE外筒に設けた噴射側壁面を有することでアクティブ冷却手法を可能とした,推進剤噴射冷却型単円筒RDEの開発に成功した.しかしながら,内部流動にはまだ未解明なところが多いため,設計則の確立にはエンジンの作動条件と,内部可視化が不可欠である.したがって,今年度はエンジン内の熱・流動のモデル化と内部可視化による現象解明を実施し,論文投稿を行う予定である.
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