研究課題/領域番号 |
19J15440
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
村田 和優 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | 金属-担体間相互作用 / 担持金属触媒 / アルミナ / ナノ粒子 / 酸化反応 / 水素化反応 / メタン |
研究実績の概要 |
担持金属ナノ粒子触媒は化学工業プロセスや環境浄化において重要な役割を果たしている。特に、担持Pdナノ粒子は様々な触媒反応に活性な金属であるが、高価で希少であることから、少量でも高い活性を示すPd触媒の開発が求められている。金属種の高分散化は触媒性能の向上の重要な因子であるが、メタン燃焼においては単純にPdを高分散化するだけでは従来以上の性能向上を達成できない。そこで申請者はPd-Al2O3間の相互作用強さ(MSI)を触媒設計の新機軸として取り入れた。MSIの弱いθ-Al2O3上ではステップサイト多く持つ球状Pdナノ粒子を生成し、従来の7倍のメタン燃焼触媒の開発をした。 申請者はMSIによって構造制御したPdナノ粒子触媒が他の反応にも適応可能であるかを試した。CO酸化においてコーナーが高活性なサイトであり、メタン燃焼とは異なる表面構造で反応が促進されることを見出した。したがって、触媒性能の向上には反応に適したPd粒子の設計が必要であり、金属-アルミナ間相互作用はPd粒子の構造制御に役立つ。更に、より精密なPdナノ粒子の設計を目指して、金属表面への吸着分子との相互作用に着目した。CO分子を還元剤としてカーボン上でPd前駆体を還元することで、シンナムアルデヒドアルデヒドのC=C結合のみを選択的に水素化する球状Pd粒子の設計に成功した。金属-担体間相互作用によって触媒の酸化還元性のチューニングすることが可能であることを見出した。触媒の酸化還元性の向上は酸化反応における触媒性能の向上に繋がる。本研究では、メタン燃焼に高活性な酸化物担持Pdナノ粒子触媒とスス燃焼に高活性なCeO2担持金属触媒の開発を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CO酸化における担持Pdナノ粒子上の反応活性サイトを原子スケールで明らかにした。CO酸化活性は約2 nm の粒子サイズをもつPd/γ-Al2O3が最も高かった。その活性は従来の2倍であった。Pdナノ粒子の構造解析によると、MSIの強いγ-Al2O3上で生成したコーナーを多く持つアモルファス様Pd粒子がCO酸化反応に高い活性を示すことが明らかとなった。 金属-気相分子間との相互作用を利用することで、担持金属ナノ粒子のより精密な合成が可能だと予想した。CO分子を還元剤としてカーボン上のPd前駆体を還元することで、ステップの割合が高い球状Pdナノ粒子を合成した。球状Pdナノ粒子はシンナムアルデヒドのC=C結合のみを選択性95%以上で水素化した。一方で、従来のH2還元によって合成されたPdナノ粒子は平滑な面を露出した2次元的なPd粒子だった。理論計算に基づいたWulff構造モデルによって、CO分子はステップの高い表面エネルギーを相対的に下げ、優先的に露出させる役割をもつことが明らかになった。 金属-担体間の電荷移動を利用することで担持金属触媒の酸化還元性の制御が可能であると考えた。Al2O3やZrO2、CeO2といった適度な酸化物標準生成エンタルピーをもつ酸化物上のPdナノ粒子がメタン燃焼に高活性であることを見出した。局所的なPdの電子状態を観察すると、これらの触媒では、反応中においてPdコア-PdOシェルの構造が形成しており、高い酸化還元性の要因であると結論付けた。次に、金属-CeO2の界面で反応が促進するスス燃焼触媒の開発に着手した。CuやRhのクラスターを担持したCeO2触媒はよいスス燃焼触媒であることを見出した。CuやRhの担持によって、金属-CeO2の界面での活性酸素の放出が容易となったことが活性向上の要因だと結論付けた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究では“Pd以外の担持ナノ粒子の設計”と“ナノ粒子の構造変化の原理解明”、“ナノ粒子構造の原子スケールでの構造解析”の3つのことに重点的に取り組む。 PtやPdといったナノ粒子の構造制御について報告例は多くあるが、Cuなどの第四周期の遷移金属ナノ粒子の構造制御の例は少ない。本研究では、Cu-Al2O3間とCu-気相分子間の相互作用を利用することでCuナノ粒子の構造制御を行う。合成したCuナノ粒子はNO還元における触媒特性を調べる。 更なる高活性なPd触媒を開発するためには、活性なPd表面が選択的に露出するように、緻密に制御する必要がある。しかしながら、どのようなAl2O3表面がPdナノ粒子の構造に変化を与えるのか、そのメカニズムはよく分かっていない。実験的な構造解析と理論的なシミュレーションを組み合わせることで、Al2O3表面の違いによる数nm~十数nmサイズのPd粒子の構造変化を調べる。実験によって明らかになったAl2O3構造から、Al2O3表面モデルを作成し、密度汎関数法(DFT)計算によってAl2O3上へのPd原子の吸着エネルギーを計算する。DFT計算によって見積もられた値を分子動力学シミュレーションにインプットし、数nm~十数nmサイズのPd粒子の構造を予測する。 ナノ粒子の構造解析はX線全散乱の測定によって行う。担体上のPdナノ粒子構造を原子スケールの近距離、中距離の局所構造とナノ粒子の平均構造を解析し、原子スケールでの高活性な反応サイトを明らかにする。X線全散乱の測定を行い、得られた散乱強度のプロファイルから2体分布関数(PDF)解析によって、ある原子からある距離だけ離れたところに別の原子が存在する確率を求める。さらに、格子歪みや平均位置からの原子の乱れに関する情報を得る。これら数値化された構造パラメータから触媒性能に重要な構造パラメータを明らかにする。
|