研究課題/領域番号 |
19J15480
|
研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
郷 すずな 岐阜薬科大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | メチル水銀 / エピジェネティクス / 神経分化 |
研究実績の概要 |
本研究はエピジェネティクスに焦点を当て、胎生期メチル水銀 (MeHg) 曝露による次世代影響メカニズムの検証を行う。これまでに、胎生期MeHg曝露によってマウス胎仔の大脳皮質においてヒストンH3のアセチル化 (AcH3) が減少し、DNAメチル化が増加することを報告した。またin vitro実験系においても神経分化期MeHg曝露によってマウスと同様にAcH3が減少し、さらに神経突起伸長が抑制されることを明らかにしている。 これまでの結果からin vivo 実験系においても神経突起伸長に与える影響を調べたところ、胎仔の大脳皮質において、MeHg曝露によって神経突起伸長の有意な減少が確認された。また、in vitro 実験系においてもMeHg曝露によるDNAメチル化の増加が認められた。MeHg曝露によりAcH3が減少したことから、ヒストン修飾を制御する酵素であるヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC) に着目した。その結果in vivo 及びin vitro 実験系共に、MeHg曝露によりHDAC3およびHDAC6の発現増加が確認された。また、MeHg曝露によってDNAメチル化が増加したことから、DNAメチル基転移酵素 (DNMT) の発現変化を解析した結果、両実験系でDNMT1の発現増加認められた。さらに、in vitro実験系でHDAC阻害剤およびDNMT阻害剤をMeHgと同時処置することでヒストン修飾変化と神経突起伸長の関連を確認したところ、阻害剤処置によってMeHg曝露による神経突起伸長の抑制に改善が認められた。 以上の結果から、発達期MeHg曝露による神経突起伸長抑制がHDACの発現増加によるAcH3の減少やDNMT増加によるDNAメチル化の増加など、複数のエピゲノム変化を介して引き起こされることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
妊娠マウスを用いたin vivo実験系とin vitro 実験系共に神経分化期MeHg曝露によって神経突起伸長が抑制されることを明らかにした。また両実験系においてエピゲノム修飾変化を確認したところ、MeHg曝露によってヒストンH3のアセチル化 (AcH3) が減少し、DNAメチル化が増加した。また、エピゲノム修飾変化のメカニズムを解析するためにMeHg曝露によってエピゲノム修飾酵素の発現変化を確認した。その結果in vivo 及びin vitro 実験系共に、MeHg曝露によりヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC) 3およびHDAC6、DNAメチル基転移酵素 (DNMT) 1の発現増加が認められた。さらに、in vitro実験系でHDAC阻害剤およびDNMT阻害剤をMeHgと同時処置することでヒストン修飾変化と神経突起伸長の関連を確認したところ、阻害剤処置によってMeHg曝露による神経突起伸長の抑制に改善が認められた。以上の結果から、発達期MeHg曝露による神経突起伸長抑制がHDACおよびDNMT増加を介して引き起こされることを明らかにした。 以上より、2019年度は概ね期待通りの研究成果が得られたと評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
個体レベルで発達期における低濃度MeHg曝露の影響を検討するために、妊娠マウスを用いたin vivo実験系を中心に検証し、神経機能とエピジェネティクスの因果関係をin vivoおよびin vitroで包括的に検証する。In vivo実験系は前年度と同様に、先行論文において、行動・学習機能への影響が報告されている条件を基盤として行う。また、in vitro実験系は、LUHMES細胞神経分化モデルを用いる。表現型としてはこれまでに見出した神経突起伸長だけでなく、シナプスネットワーク変化について評価し、下流標的遺伝子のエピゲノム解析ならびにエピゲノム標的分子の同定を行う。また、in vitro実験系を用いて、未分化な状態でMeHgを曝露し、その影響が継代後も維持され表現型として認められるかを検証する。また得られた成果を論文として投稿する。
|