本研究では、印刷物とディスプレイのような異なる表示デバイス間において、色の見えに違いが生じる原因を明らかにすることを目的としている。この要因は3点考えられる。1点目は、物理的なデバイスの違いに起因するもの、2点目は、観察者の個人特性の違い、3点目は、錐体以外の視細胞の働きである。 研究代表者はこれまで、任意の分光分布を作成可能なマルチスペクトル光源を用いることで、ディスプレイと印刷物間において分光分布を一致させ、それらの色の見えを比較することによって、異種表示デバイス間で生じる色の見えの違いが、分光分布に起因することを実験的に明らかにした。次に、個人差による要因を取り除くため、LEDを用いて分光感度特性を測定できる装置を開発し、交照法によって個人の分光感度特性を測定した。この時、錐体以外の要因と考えられる杆体・メラノプシン細胞の分光感度の推定のため、特別な観察条件を用意して実施した。そして、推定した分光感度曲線を用いて杆体あるいはメラノプシン細胞の刺激量のみを独立に変調できる光刺激を作成し、心理物理実験を行った。この結果、杆体やメラノプシン細胞が、中心視においても色知覚へ寄与していることが示された。このことから、異種表示デバイス間において生じる色の見えの違いにおいても、杆体やメラノプシン細胞が影響していると考えられる。
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