研究課題/領域番号 |
19J15552
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
高橋 悠記 北里大学, 獣医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 慢性腎臓病 / 糸球体傷害 / 尿細管間質傷害 / 連鎖解析 / 原因遺伝子 |
研究実績の概要 |
C57BL/6系統とFVB/NJ系統を用いた連鎖解析及び表現型解析より得られた2つの腎症抵抗遺伝子座とRNA-seq解析の結果を照らし合わせ、選定した候補遺伝子をまとめたところ、それぞれの領域で候補遺伝子を約20個まで絞り込んだ。さらにこれら遺伝子から腎症関連シグナルとの関与が報告されている遺伝子についてデータベースを用いて検索したところ、10番染色体からはNsas1遺伝子を、2番染色体からはNsas2遺伝子を候補遺伝子として選抜した。なお、2つの遺伝子はC57BL/6系統よりもFVB/NJ系統での遺伝子発現量が高く、また腎症との関連についての報告はない。候補遺伝子が腎症へ寄与しているかを検討するため、in vitro及びin vivoでの解析を行った。 <Nsas1> ポドサイト変性を導入したポドサイト細胞株においてNsas1遺伝子をノックダウンすることでポドサイト変性が是正されることが明らかとなった。慢性腎臓病自然発症モデルマウスにNsas1遺伝子のノックアウトを導入したところ、ノックアウト群では尿中アルブミン尿の有意な減少、及び生存率の有意な上昇がみられ、Nsas1遺伝子が腎症の増悪因子であることが示唆された。 <Nsas2> ポドサイト細胞株を用いて細胞遊走性試験を行ったところ、Nsas2ノックダウン細胞株では細胞の遊走が抑制され、Nsas2遺伝子がポドサイトにおいて細胞骨格の制御に寄与していることが示唆された。慢性腎臓病自然発症モデルマウスにNsas2遺伝子のノックアウトを導入したところ、5週齢時での尿中アルブミン量が増加しており、Nsas2ノックアウトにより腎症が早期に悪化していることが示唆された。このことからNsas2遺伝子は腎症に対して保護的に働く抵抗性因子と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
受入研究者はこれまでに、10番染色体における腎症抵抗性候補遺伝子であるNsas1遺伝子のノックアウトマウス、及びノックダウン細胞株を用いて表現性解析を行い、Nsas1遺伝子が腎症における増悪遺伝子であることを明らかにした。 また課題であった2番染色体の腎症抵抗性候補遺伝子として、Nsas2遺伝子を新たに見出し、Nsas2遺伝子のノックアウトマウスを作成したところ、通常の慢性腎臓病モデルマウスと比較し腎症が早期に悪化することを明らかにした。このことからNsas2遺伝子が腎症進行を抑制していることが示唆された。これらのノックアウトマウスは単独の変異では正常であり、腎症悪性化を抑制する創薬シーズになりえることも確認された。したがって、2番染色体及び10番染色体から腎症抵抗性遺伝子を同定するという本研究の目的から考えると、研究は順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
<Nsas1> Nsas1遺伝子の腎臓における作用点(糸球体か近位尿細管)を明らかにする。in vitroの解析として新たに尿細管上皮細胞株を用いた解析を今後行う予定である。Nsas1が腎症進行に関与する分子機序の解明を目指すためデータベース及び文献からタンパク質の機能推定を行う。また腎症モデルを慢性腎臓病自然発症モデルマウスに限らず、LPS腎症モデルマウス、腎切除モデルマウス、抗ネフリン抗体モデルマウス、腎虚血再灌流モデルマウスなど他の腎症モデルにおいても腎症の重篤度に影響があるかを検証する。 <Nsas2> Nsas2欠損がTns2欠損に起因するポドサイト傷害を悪性化するか否かを検証すべく、尿細管及び間質の傷害スコア化、若齢時における糸球体悪性化の検証を行う。また原疾患を問わず、Nsas2欠損は腎症に感受性であるか否かを明らかにするために、Nsas2ノックアウトマウスを用いてLPS投与による腎症モデルを作出し、比較・検討する。
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