研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、ティムール朝(1370-1507)期のペルシア絵画における中国絵画からの影響を、『サライ・アルバム』(トプカプ宮殿図書館所蔵 H. 2152, H. 2153, H. 2154, H. 2160)、『ディーツ・アルバム』(ベルリン国立図書館所蔵 Diez Albums, fol. 70-74)に貼られた、ペルシア画家による中国絵画の模写を中心に考察を進めた。これらのアルバム中の絵画から、主に、観音図、羅漢図、四睡図、蝦蟇鉄拐図などの道釈人物画に焦点を当てた。ペルシア画家が模写した観音図は、これまで唐時代の作風と関連づけられてきたが、明時代に一層世俗化した観音のイメージとの共通点を明らかにした。同じくペルシア画家の模写した羅漢図は、元時代の作風との類似点が指摘されてきたが、改めて明時代に宮廷でも民間でも流行した浙派の作例と比較して共通点を見出すことで、両者ともティムール朝と明の交流の一端を表すものと結論づけた。本研究では、作風を中心にペルシア画家による中国絵画の模写と想定されるオリジナルの作例との相違点を論じたが、今後は、ペルシア画家がこのような中国絵画の意味をどのように解釈しつつ、収集・模写していたのかという課題にも取り組みたい。道釈人物画の他には、アルバム中の二十四孝図など中国版画からの影響にあたった。これらは、元版に近い絵画様式も残されているため、両アルバムにおけるティムール朝期以前の東西の美術品の収集状況の調査も進めつつ、上述の明時代の影響と合わせて考察した。
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