研究課題/領域番号 |
19J20012
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
長江 拓也 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 種特異性 / 花粉管誘引 / 受容体 |
研究実績の概要 |
植物が子孫を残すためには、雄組織である花粉管が雌しべ組織内の奥深くに存在する卵細胞付近まで誘引される必要がある。この花粉管誘引は、同種と近縁種の花粉管は見分け、同種同士での優先的な受精を引き起こすための同種認証機構として作用すると考えられている。しかし、この同種認証機構の分子メカニズムについては雌しべ内で花粉管を観察することが難しいこと、花粉管と雌しべの連続的で協調的な細胞間コミュニケーションによって生み出されれていると予測されるため今まで解析がほとんど進んでいない。 本研究の目的は、被子植物シロイヌナズナとその近縁異種を用いて(1)同種と異種の花粉管が雌しべ内の卵細胞にたどりつくまでの経路の違いを見出すこと、(2)この同種認証機構に関わる分子メカニズムの一端を明らかにすることを目指した。 (1)花粉管の化学組織染色に用いられてきたアニリンブルー染色を用いて、雌しべ内の花粉管を染色した後、深部観察が可能な二光子励起顕微鏡を用いて観察するための条件検討を行った。シロイヌナズナ、トレニアなどの雌しべ内を伸長する約30-100本の花粉管をそれぞれ区別して定量的な解析することが可能になった。シロイヌナズナ雌しべ内でシロイヌナズナとその近縁種の花粉管を観察したところ、異種の花粉管は雌しべ中心の花粉管の通り道である伝達組織に留まり続ける傾向が見られ、その後の誘引過程にも異常が生じていた。 (2)(1)で見出された種間の違いがどのような因子によって生み出されるかを絞り込むために、雌しべの発生に異常をきたす複数の変異体を用いて解析を行った。いくつかの変異体において、野生型めしべに比べ、花粉管が伝達組織内に留まりやすくなる傾向が見られた。今後は主に(2)の解析を進め、種特異性を生み出す組織、上流因子を絞り込んだ後、遺伝子発現解析を行うことで種認証機構の鍵となる候補を見出すことができると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の計画では、花粉管誘引の様子を雌しべ内で定量化できる手法を開発し、同種と異種の花粉管誘引に種間差を生み出す段階の特定することを目的としていた。令和元年度の研究によって、シロイナズナ雌しべ内において近縁異種の花粉管は、これまで着目されてきた胚珠近傍での誘引以上だけでなく、その前段階である伝達組織から隔壁表面への花粉管の方向制御に対しても差が見られた。さらに確立した系を用いて、種間差が見られた誘引段階に異常が生じる変異体も単離できたことから期待通り研究が進展したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、雌側の1倍体細胞に高い発現を示す転写因子が種間差を生み出す段階に寄与していることが示唆された。この転写因子下流に種特異性を生み出す因子があるかを確かめるために引き続きin vivoおよびin vitro花粉管誘引系を用いてさらに解析を行う。生理学的な解析と並行して、野生型雌しべと変異体雌しべで遺伝子発現解析を行うことで種認証機構の鍵となる候補を絞り込んでいく予定である。候補因子については、昆虫細胞系を用いてタンパク質を発現し、生理活性を評価する予定である。 雌しべの2倍体組織や花粉に高発現する転写因子に対しても着目し研究を進めていく。CRISPR/Cas9法を用いた欠損変異体やCRES-T法を用いた転写抑制株を作成し、それらの株を用いて昨年度に確立した系を用いて種特異性を生み出す因子を同定する。
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