研究課題
目的:これまで、硫酸化多糖類のフコイダンが持つ生理機能における硫酸基の重要な役割が報告されている。しかし、硫酸化多糖類の硫酸基含量を測定する従来の分析法では、検体の前処理における抽出および精製の過程で脱硫酸化を生じる可能性があるため、再現性が非常に低いことが問題の一つとなっている。この課題の解決に向けて、昨年度は硫酸化オリゴ糖標品を用いてligand-assisted 1H NMR法による硫酸基含量の定量系を構築することに成功した。そこで、本年度は、構築したNMR定量法を標品として市販されるフコイダンの硫酸基含量測定に適用するための至適測定条件を検討した。また、蛍光標識フコイダンを用いて、マウス腸管免疫細胞におけるフコイダン作用標的細胞を同定するとともに、フコイダン受容体および免疫賦活作用の解明に関する実証試験を行った。結果-硫酸化多糖類の硫酸基定量法の確立昨年度の研究で硫酸基含量測定における至適リガンドであることが確認されたイミダゾールについて反応特異性を検討した結果、その化学シフト値はカルボキシル基を持つ糖類の存在下でも大きく変化することが確認された。この結果は、イミダゾールと硫酸基の相互作用をカルボキシル基が妨害する可能性を示しており、硫酸化多糖類の硫酸基含量測定の大きな妨げなると考えられた。そこで、被検試料からカルボキシル基を除去する前処理法を検討し、本法を適用することで非選択的な化学シフト値の変化が解消されることを確認した。また、構築したligand-assisted 1H NMR法を用いてFucus vesiculosus由来のフコイダン標品に含まれる硫酸基含量を測定し、従来法の結果と同等かつ再現性の高い定量値が得られることを確認した。以上の結果から、今年度までに新たに構築した方法は、海藻から抽出した多糖類の硫酸基含量の測定への適用が可能であることが示された。
3: やや遅れている
フコイダンを含む海藻由来の硫酸化多糖類の硫酸基定量法の構築は進んでいる。フコイダンの作用標的細胞および受容体の探索は、新型コロナウイルスの拡散に伴って動物および細胞培養試験が極めて困難な状況であったため、進捗がやや遅れている。
(1) 硫酸化多糖類の新規分析手法の開発と品質評価(1-3) 新規硫酸化多糖類の硫酸基含量の定量法の応用展開: 2020年度までに確立したligand-assisted 1HNMR法を各種海藻由来の硫酸化多糖類に適用するため、食品として一般に市販される海藻から多糖類を熱水抽出し、多成分混合検体である多糖粗抽出物を測定対象とした硫酸基定量系の構築に取り組む。(2) フコイダンの免疫調節作用機構の解明(2-2) 腸管免疫におけるフコイダンの作用標的細胞の同定蛍光標識フコイダンを用いてマウスの小腸組織に存在する免疫細胞を蛍光染色し、セルソーターを用いた細胞集団の解析により蛍光標識フコイダンが結合した細胞を分離して活性化状態の確認をすることで、フコイダンの作用対象となる免疫細胞を同定する。また、標識化フコイダンで処理した免細胞を用いて標識化糖鎖-タンパク質複合体の形成を評価し、フコイダン受容体の同定を試みる。
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Analytical Sciences
巻: 36 ページ: 1269-1274
10.2116/analsci.20P163