研究課題/領域番号 |
19J20051
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
岡田 咲耶 熊本大学, 自然科学教育部, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞外小胞 / Extracellular vesicles / エクソソーム / Exosome / ブレッビング / 膜ブレッブ / ベシクル化 / ドラッグデリバリー |
研究実績の概要 |
細胞外小胞 (EVs) は、直径100ナノメートル程のエクソソームから、数十マクロメートルに及ぶ Giant Plasma Membrane Vesicles(GPMVs)まで、大きさごとに分類される。大型であるGPMVsについては、膜表面の脂質やタンパク質の集合・離散に関する解析は進んでいるものの、構造や生理機能を詳細に解析した研究事例は少ない。仮に、GPMVsの大きな体積を活用して、内部に生体高分子や細胞小器官を含有させることができれば、複雑な反応を膜で取り囲み、環境から独立させることが可能になる。質・量ともに多くの物質を輸送できる新しい薬物送達システムの構築も夢ではない。私は、こうしたGPMVsの応用ポテンシャルの高さに魅力を感じ、GPMVsに関する研究を進めている。 研究を始めるにあたり、安定かつ効率的なGPMVsの調整法の確立が不可欠であった。そこで、いくつかの化学物質を検討し、有効な薬剤を探索した。その結果、非常にダイナミックな膜ブレッブとべシクル化を誘導する条件を確立することが出来た(Okada et al. 2020)。特に、べシクル化には、dimethyl sulfoxide と glycerol が有効であり、未処理の場合と比較して、約10倍の量のGPMVsが得られた。また、誘導した大量のGPMVsを簡便に標識する方法の検討も行った。これまでのEVsの標識方法は、膜タンパク質に着目したものが多く、膜状態が変化する可能性が指摘されていた。そこで、GPMVs内部に存在する核酸(RNA)あるいはタンパク質をターゲットとした可視化を試みた。その結果、洗浄の必要のない、GPMVsの簡便な検出方法を確立した(Okada et al. 2018)。 現在は、GPMVsの構成成分の網羅的解析と、化学物質や酵素を用いたGPMVsの細胞への取り込み機序の解明を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究項目1) GPMVs 画分を用いた、蛋白質、核酸(RNA)、脂質、糖鎖に関する網羅的な解析 研究項目2) 化学物質や酵素を用いたGPMVs の細胞への取り込みによる細胞機能改変の検討 を進めた。 研究項目1) パーコール密度勾配により精製したGPMVs 画分を用いて、蛋白質、核酸(RNA)、糖鎖の網羅的な解析を行った。蛋白質の解析には、ポリアクリルアミド電気泳動で分離し、切り出したバンドを、核酸(RNA)の解析には、total RNA抽出キットを用いて作製したサンプルを、それぞれ質量分析にかけ、解析した。その結果、GPMVs 画分において、7種の蛋白質が同定された。RNAについては、分解産物が多いことが明らかとなった。また、膜表面の糖鎖解析には、14種類のFITC標識レクチンを用いてGPMVsの染色と蛍光強度の測定を行った。その結果、6種の糖鎖が、膜表層に多く存在することが分かった。 研究項目2) 染色試薬を用いたGPMVsの構造解析において、GPMVsの表面の膜が、AnnexinV-FITCで標識されたことから、ホスファチジルセリンの露出が推測され、正常細胞の膜状態とは異なる可能性が示唆された。そのため、エクソソームやマイクロベシクルと比較して、情報伝達能に乏しい可能性が考えられた。そこで、化学物質や酵素を用いて、GPMVs、細胞、あるいは、両方の膜表面を処理することで、取り込みの効率を改善出来ないかと考えた。その結果、糖鎖合成阻害剤、糖鎖分解酵素、蛋白質分解酵素を用いることで、取り込みに効果を及ぼす可能性が示された。また、アポトーシスの誘導に使用される薬剤で処理した細胞から作製したGPMVs について、薬剤の効果を保持したGPMVs が生成される可能性も得られた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度、受容細胞の膜表層の糖鎖に対して処理を行うことで、GPMVsと細胞の相互作用が促進される可能性が得られた。そこで、今後は、研究項目1) GPMVsの細胞への取り込み機序の解明 研究項目2) 細胞への物質の導入方法の確立 を設定し、研究を進めていく。 研究項目1) エクソソーム をはじめとする細胞外小胞の取り込みの機序は、未だ十分に解明されていない。そこで、私は、大型で光学顕微鏡での観察が容易であるGPMVsを用いて、取り込み機序の解明を目指している。取り込み機序には、大きく、エンドサイトーシス、GPMVsと細胞の融合、あるいはその両方が考えられる。エンドサイトーシスに関しては、様々な種類が考えられるため、各エンドサイトーシスの阻害剤を用いて、取り込みの効率を判定する。GPMVsと細胞の融合に関しては、ライブセルイメージングによる解析を行う。最終的に、明らかになった取り込み機序を基に、GPMVsの取り込みを促進させる条件を整える。 研究項目2) GPMVsは、直径が数十μmと非常に大型であるため、小型EVsよりも質・量ともに多くの物質を内包し、輸送に利用できる可能性を秘めている。そこで、GPMVs内部に、薬剤を導入する方法の確立を目指している。これまでに、精製したGPMVsを高温(90℃)条件下において、FITC標識dextranと混合すると、GPMVs内部で緑色の蛍光が観察されたことから、ヒートショックにより膜構造を変化させることで、物質の導入効率を上げられる可能性が示された。そこで、ヒートショック処理による、GPMVs内部への核酸の導入方法の検討を進める。 将来的には、研究項目1)と2)を合わせて、薬剤や生体高分子を導入したGPMVsを細胞に効率よく取り込ませることで、薬物送達の新たなツールとしての利用や、人工細胞といった生体機能素材としての利用を目指している。
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