研究実績の概要 |
細胞外小胞Extracellular Vesicles(EVs)の中で最も大型であるGiant Plasma Membrane Vesicles(GPMVs)は、膜表面の脂質やタンパク質の集合・離散に関する解析は進んでいるものの、構造や生理機能を詳細に解析した研究事例は少ない。仮に、GPMVs内に、多量の生体高分子や細胞小器官を含有させることができれば、より多くの物質を輸送できる新しい薬物送達システム(DDS)の構築も夢ではない。私は、こうしたGPMVsの応用ポテンシャルの高さに魅力を感じ、GPMVsに関する研究を行なっている。 研究を始めるにあたり、安定かつ効率的なGPMVsの調整法の確立が不可欠であった。そこで、膜に作用しやすい両親媒性に注目して薬剤を探索した結果、paraformaldehyde (PFA)とdimethyl sulfoxide (DMSO) により、ダイナミックな膜動態の変化を誘導でき、効率的な条件を確立することが出来た(Okada et al. 2020)。誘導したGPMVsについて、蛍光試薬を用いた解析やプロテオミクス解析、RNA解析を用いて、生化学的な構造解析を行った(Okada et al. 2018)。 また、GPMVsのDDSへの応用を目指して、精製したGPMVsを培養細胞へ効率よく取り込ませる条件の検討も行った。細胞膜の構成成分であるリン脂質、タンパク質、糖鎖のそれぞれに対する分解酵素を用いて、GPMVsの細胞表層へのドッキング効率を調べた。その結果、糖鎖分解酵素(a2-3,6,8 neuraminidase)を使用した際に、GPMVsの細胞表層へのドッキング効率が約2倍に上昇し、更にGPMVsの内容物の細胞への移行効率も約6倍に上昇した(論文作成中)。糖鎖処理によってGPMVsと細胞の相互作用を促進させられる可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに、GPMVsの生成効率を大きく向上させ、GPMVs研究における技術的基盤を築いた。本年度は、研究項目1)化学物質および酵素処理によるGPMVsの細胞への取り込みの効率の検討 研究項目2) GPMVsの細胞への取り込み機構の解明 を行った。 研究項目1) 細胞膜の構成成分であるリン脂質、タンパク質、糖鎖のそれぞれに対する分解酵素を用いて、GPMVsの細胞表層へのドッキング効率を調べた。その結果、糖鎖分解酵素(a2-3,6,8 neuraminidaseとPNGaseF)を使用した際に、GPMVsの細胞表層へのドッキング効率が約2倍に上昇し、更に、GPMVsの内容物の細胞への移行効率が約6倍に上昇した(論文作成中)。a2-3,6,8 neuraminidaseはシアル酸特異的に分解するシアリダーゼの一種であり、シアル酸特異的レクチンを用いた染色の結果、膜表層のシアル酸量の減少が示唆された。シアル酸は負電荷を帯びていることから、細胞表層の電荷を抑えることが、GPMVsと細胞の相互作用の促進に重要であると考えている。 研究項目2)a2-3,6,8 neuraminidas処理条件下において、取り込み機構を調べるために、カルボシアニン色素DiOを用いて膜を標識したGPMVsを細胞に添加し、ドッキング後のGPMVsの形態変化を観察した。その結果、GPMVsと細胞のドッキングサイトにおいて、DiO蛍光を示すチューブ様構造が頻繁に観察された。また、免疫染色法による解析の結果、GPMVsの内部でα-tubulinが検出された。これより、GPMVsと細胞は相互作用する際に、中間構造としてα-tubulinにより支えられたチューブ構造を形成し、チューブ構造を介して物質の移行を起こす可能性が示唆された。今後、チューブ構造のより詳細な解析を進めていく。
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