本年度は、3本の英語論文を国際誌へ投稿し、それらの内容を3つの国際学会と3つの国内学会の計6個の学会で口頭発表を行った。 1つ目の論文では、非標準な設定下での尤度比過程の漸近挙動を調べた。初めに、曲構造を持つモデルである曲正規分布族と同時方程式モデルを考えた。一見すると、曲構造を持つモデルは局所漸近正規(LAN)性を持たないように思えるが、これらのモデルのLAN性を証明することが出来た。次に、ランダム効果を持つ一次元配置モデルを考えた。このモデルは、分散分析で頻繁に使用されるモデルである。ランダム効果の分散がパラメータ空間の境界にある場合を考えると、このモデルはLAN性を持たず、近接オーダーによって、尤度比過程の収束先が変化することが分かった。また、フィッシャー情報量が非正則になる。したがって、ランダム効果を持つ一次元配置モデルは、非常に特異なモデルあることが明らかになった。さらに、尤度比検定の検出力を明らかにし、漸近最強力検定であることを証明した。この論文の内容は、研究目的(C)「Stiefel多様体上時系列に対して、パラメトリック局所漸近正規性(LAN)に基づく最適推測理論の構築」を達成するための土台となる。 2つ目の論文では、計数時系列に対する構造変化検定問題に取り組んだ。ここで取り扱っているモデルは、分布の仮定の代わりに、定常性とエルゴ―ド性を課したINGARCHモデルである。4つの統計量の帰無分布とそれらに基づく検定の一致性を証明した。 3つ目の論文では、計数時系列に対する条件付き分散の検定問題に取り組んだ。提案統計量の帰無分布、検定の一致性、近接仮説下での非自明な検出力を明らかにした。この検定問題は、条件付き期待値の検定、適合度検定及び等分散性の検定にも応用することが可能である。本論文では、大腸菌感染症の感染者数の解析も行った。
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