線維化とは組織にコラーゲンなどの細胞外マトリックスが蓄積し、硬化する疾患である。硬化した組織は、その機能が低下し、有害である一方、有効な治療薬はほとんど存在していない。私は、線維化時に発現が増加し、コラーゲン産生を促進する転写共役因子について研究を行っている。本年は、目的の転写共役因子がRNA結合タンパク質とどのようなメカニズムで相互作用し、線維化関連因子の発現を促進させているのかについて明らかにすることを目的として研究を行った。RNA結合タンパク質の多くは、RNA結合タンパク質同士で相互作用し、液-液相分離を引き起こし集まり、液滴を形成し機能を持つことが報告されている。そこで、多くのRNA結合タンパク質と相互作用する目的の転写共役因子も、液-液相分離しているのではないかと考え検討を行った。その結果、目的の転写共役因子は液-液相分離し、主にmiRNAの産生に関与する液滴に取り込まれることが明らかになった。さらに、目的の転写共役因子はその液滴内でRNA結合タンパク質と相互作用し、miRNAの産生を制御して線維化関連因子の発現を促進させていることを明らかにした。次に、in vitroの実験で得られた結果が、マウスを用いたin vivoの実験でも認められるかを明らかにするために、目的の転写共役因子を欠損したマウスを作成し検討を行った。マウスの心臓に心筋梗塞処置を施し、心臓の線維化を誘導し線維化関連因子の発現量の測定を行った。その結果、目的の転写共役因子を欠損したマウスにおいて野生型マウスと比較して線維化関連因子の発現が心臓において有意に減少した。また、in vitroの結果と同様にmiRNAの発現量も抑制されていることが明らかになった。さらに、心筋梗塞処置後28日目において、目的の転写共役因子を欠損したマウスでは野生型マウスと比較して心機能の有意な改善が認められた。
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