研究課題/領域番号 |
19J20094
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
井上 陽登 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
キーワード | X線自由電子レーザー / X線ミラー / 形状可変ミラー / Wolter ミラー / X線集光 |
研究実績の概要 |
高ピーク強度と同時に不安定性を有するX線自由電子レーザー(XFEL:X-ray free-electron laser)を高い安定性の下10nm,及び5nm以下に集光するシステムの開発に取り組んでいた.申請者はWolter配置を元に,二枚の凹凸面鏡を組み合わせてX線を集光する光学系を設計した.計算,及び実験から従来の光学系の数千倍の入射角許容誤差を有することを確認した.前年度同様,まず10nm集光光学系に関してSPring-8で形状誤差を評価し,今年度は二次元両方向のX線ミラーの形状修正を施した.再びSPring-8で実験し,回折限界集光条件を満たすことを確認した.そして日本のXFELであるSACLAでも集光実験を行ったところ,SPring-8における計測同様,回折限界集光条件の達成を確認した. また,申請者は形状可変ミラーを用いた5nm集光光学系を設計,及び開発した.本光学系も10nm集光光学系と同様にWolter配置を元にした.これにより,従来の楕円単枚の光学系に比べて,角度許容誤差が数百倍以上大きくなることを,波動光学シミュレーションにより確認した.また,設計段階において,有限要素シミュレーションを用いて,設計したミラーが修正可能な形状誤差量を検討した.特に,ミラー作製時に生じる形状誤差は3nmPV以下であることを基準にして,どれほどまで高空間周波数成分に対応できるかを検討した.計算の結果,6周期までの正弦波型形状誤差が3nmPV以上存在した場合においても0.5nmPV以下の必要精度でミラー形状を修正可能であることがわかった.本結果を元にミラーの設計を決定し,本年度にSPring-8での実験を予定している.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
10nm以下にXFELを集光できる光学系が昨年度に完成したことは非常に大きい.これにより,本年度に設計開始予定であった,SACLAへの真空チェンバ導入を大幅に早めることができた.それに伴い,応用実験の実施予定も非常に早まるので,より多くの科学分野にいち早く貢献できることになる.また,完成した光学系のクオリティも計画より格段に高い.計画時はミラー一枚の波面収差λ/4PV以下を目指していた.まずこれは余裕で達成できており,更にミラー二枚により生じる二次元的な波面収差λ/14RMSもクリアすることができた.これは集光されたX線の強度が非常に高くなることを示唆している.更に応用実験のことを考え,波面計測手法をベースにした,光学系のオートチューニングシステムを開発できた.これにより,光学系調整にかかる労力や時間を大幅に減らすことができ,応用実験がスムーズになる. そして,形状可変ミラーを用いて5nm以下にX線を集光するシステムの開発に着手できた.集光径5nm以下に挑戦できたことは,高精度な形状可変ミラーの開発と同時に多層膜の研究が進んだことが大きい.成膜可能な多層膜最小膜厚は,10nm集光光学系を開発する際に非常に詳細に検討した部分であり,この経験が非常に生きた.これにより,前人未到のX線ミラーを用いた5nm集光光学系の設計・開発が実現した. また,ミラーとは別部分で,申請者が昨年度までに開発したスペックル干渉計の応用実験の原理実証ができた.申請者の論文を元に,スペックルの自己相関関数から位相回復計算によりビーム強度を再構成できることを計算機シミュレーションにより確認し,XFEL施設にて原理実証も成功させた. 以上のような理由から当初の計画以上に進展していると考える.
|
今後の研究の推進方策 |
①高安定なSub-10nm集光光学系を用いた応用実験 実際にサイズ10nm以下に集光するためには集光X線の形状を把握しつつミラーのアライメントを最適化しなければならない.そこでまず,申請者が過去に開発したスペックル干渉計を用いて,アライメントの調整及びビーム形状の決定を行う.そして,サイズ10nm以下に集光されたことを確認した後に焦点位置に試料を挿入し,X線非線形光学現象の観察実験を行う. ②形状可変ミラーを用いたsub-5nm集光光学系の開発 双曲凸ミラーより楕円凹ミラーの方が斜入射角が大きいため,波面収差の主な要因は凹ミラーの形状誤差である.本研究では凹ミラーを形状可変ミラーとする.変形量と変形ドリフト量は比例関係にあるため,大きな変形はシステムの不安定化の要因となる.最小限の変形量で波面を修正可能な形状可変ミラーの開発を進める必要がある.シミュレーションモデルを生成し,PV-3nmの形状誤差まではPV-0.5nm以下の必要精度で修正できることを確認した.変形ドリフトを考慮して,大きすぎる形状誤差に対してはあらかじめEEMや差分成膜を施すことも視野に入れつつ,SPring-8での実証実験を行う. ③高次光反射を利用した多層膜の検討 多層膜周期長は斜入射角(∝開口数)と反比例の関係であるため,集光径を小さくするためにはさらに薄い層で構成される多層膜を作ればいいわけであるが,重元素層は膜厚が薄すぎる場合,島状成長(アイランド現象)が生じる.そこで,高い斜入射角のX線を高効率に反射するために,多層膜の高次光反射の利用を検討する.まず,高次光の反射率は重元素・軽元素の比率(γ値)の影響を大きく受けるため,最適なγ値を計算により決定する.また,膜厚制御に必要な精度も従来の2倍以上必要であり,界面粗さにも敏感となるため,多層膜成膜技術の向上や多層膜材料の再検討を進め,高反射率の達成を目指す.
|