研究課題/領域番号 |
19J20101
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
黒木 崇央 筑波大学, 人間総合科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | インフルエンザウイルス / 小胞輸送 / 粒子形成 / 粘膜免疫 / アクチン |
研究実績の概要 |
本研究の目的はインフルエンザウイルスが感染性・伝播性の高い“良質”なウイルス粒子を産生する機構を解明し、そのウイルス生存戦略上の意義を理解することである。申請者はこれまでにRab11a陽性小胞を介したウイルスゲノムの順行輸送が、ウイルススパイクタンパク質が高密度に充填された“良質”な子孫ウイルス粒子形成に必要であることを見出していた。本年度はウイルス粒子の“質”保証の免疫逃避における意義解明に加え、“良質”なウイルス粒子形成に必須なウイルス粒子形成場(budozone)の可視化を行った。Rab11aのアダプター分子をノックダウンした細胞から“低質”なウイルス粒子を大量調製し、ホルマリン処理後Poly(I:C)アジュバントと混合してマウスに経鼻接種し、鼻腔洗浄液を回収した。“低質”なウイルス粒子を免疫したマウスではコントロールに比べて総IgAあたりの抗ウイルスIgA価が顕著に高く、感染性ウイルスに鼻腔洗浄液を処理して中和試験を行った結果、“低質”なウイルス粒子を免疫したマウスの鼻腔洗浄液はコントロールよりも優位に高い感染阻害効果を示した。以上から、“良質”なウイルス粒子形成は分泌型IgAを主とする宿主の粘膜免疫からの逃避に必要であることが示された。また、蛍光タンパク質融合ウイルス膜タンパク質を発現する細胞を用いて、高速原子間力顕微鏡と共焦点レーザー顕微鏡での相関タイムラプス観察を行った。ウイルス感染細胞表面では、ウイルス膜タンパク質と共局在する直径数百ナノメートルの安定した突起構造が観察され、budozoneであることが示唆された。さらに、アクチン重合阻害剤を添加するとbudozone様の突起構造は観察されず、アクチンリモデリングを介してbudozoneが形成される可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Rab11aノックダウン細胞においても感染性ウイルス放出量は大きく減少せず、これまでウイルスゲノムがRab11a陽性小胞依存的に輸送される意義は不明であった。本研究ではウイルス粒子の“質”に注目し、初年度で “良質”なウイルス粒子形成が宿主の粘膜免疫からの逃避に必要であることを明らかにした。これらの成果をまとめた論文を投稿中である。また、生細胞表面のbudozoneの可視化に成功し、その形成機構を詳細に解析することが可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
研究成果から、ウイルスゲノムを輸送するRab11a陽性小胞はアクチンリモデリングを促進するシグナルを伝達し、budozone形成を誘導している可能性が考えられる。ウイルス粒子中にはアクチン結合タンパク質が取り込まれることが報告されており(Shaw et al., PLoS Pathog, 2008)、それらの活性はシグナル分子であるホスファチジルイノシトール4,5-ビスリン酸(PIP2)によって制御される。また、申請者は近位性ビオチン修飾法と質量分析により感染細胞におけるRab11aのインタラクトーム解析を行い、感染細胞においてRab11aと結合するアクチン結合タンパク質を同定した。次年度では感染細胞におけるPIP2の局在変化およびその合成・分解経路に着目するとともに、上記のアクチン結合タンパク質をノックダウンした細胞におけるbudozone形成を評価することで、小胞輸送とアクチンリモデリングによるbudozone形成機構の時空間的な制御機構の解明を目指す。
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