本研究の目的は、インフルエンザウイルスが感染性・伝播性の高い“良質”なウイルス粒子を産生する機構を解明し、そのウイルス生存戦略上の意義を理解することである。前年度までに、アクチンリモデリングに関わるRhoファミリータンパク質を不活性するARHGAP1がFIP5依存的にウイルスゲノムとともに輸送され、ウイルス出芽部位(budozone)形成を促進することを見出していた。本年度は、ARHGAP1を介した感染依存的なアクチン制御機構の解明を目的として研究を実施した。まず、蛍光標識アクチンプローブを恒常的に発現するA549細胞株を樹立し、FRAP法により皮質アクチン繊維の動態解析を行った。その結果、感染細胞では非感染細胞と比べてアクチンシグナルの蛍光回復が約1.4倍遅延しており、感染依存的にアクチン繊維の動態が安定化することが判明した。一方、そのような動態安定化はFIP5 KD細胞およびARHGAP1 KD細胞では観察されず、ウイルスゲノムとともにFIP5依存的に輸送されたARHGAP1がアクチン繊維の動態を安定化することが示唆された。また、透過型電子顕微鏡を用いたウイルス粒子の微細構造観察も行ない、FIP5 KDおよびARHGAP1 KD細胞から放出されたウイルス粒子はウイルス粒子当たりのスパイク数が3-4割減少することを明らかにした。前年度までにアクチン繊維がbudozone形成の足場となること、スパイクタンパク質の充填密度が低い粒子は免疫原性が高いことを明らかにしている。これらを踏まえると、ARHGAP1依存的に動態安定化したアクチン繊維がbudozone形成の足場となり、免疫原性の低い“良質”なウイルス粒子が効率的に産生されるというモデルが推測される。なお本研究内容をまとめた論文の投稿状況は順調であり、近日中に公表できる見込みである。
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