研究課題/領域番号 |
19J20126
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
石田 崇人 北海道大学, 工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | マルチスケール劣化解析 / 光劣化 / ケモインフォマティクス / 自動酸化反応 / 内部構造変化 |
研究実績の概要 |
本年度は主著4件の原著論文,2件の国際学会フルペーパーが掲載された.学会発表は国内学会3件,国際学会1件の発表を行った.主要な結果としては,光劣化度合いのことなる複数のポリウレタン試料を作成し,それらの赤外分光スペクトルを取得し,その結果を統計解析手法である二次元相関分光法を用いることで複雑な分解機構を示すウレタン樹脂の劣化現象をよく捉えることができた.その中でも光酸化劣化反応により切断を受けた分子鎖はすぐさま周囲の水素結合サイトを発見し,水素結合を形成することが示唆された.そして,劣化が重度に進んだ系においては不均一な構造形成を示唆する結果が得られた. 当該年度に実施した研究は,材料劣化時に起こる大規模構造変化の駆動力を特定するために行ったケモインフォマティクス的手法による解析的検討,及び,光劣化を受ける高分子材料が暴露される空気中の湿気がある場合とない場合でどのように劣化挙動が異なるかという結果について主に論文をまとめた.後者の成果に関して言えば,湿気がある場合において劣化現象が遅延するという結果が得られ,これは当該分野でよく言われる結果とは相反するものであるが,対象試料の化学変化という観点と内部組織構造変化の2つ側面に焦点を当てることでこれを説明することに成功した.具体的には,劣化反応の主な機構である自動酸化反応を駆動する過酸化物が水分の存在により非ラジカル的(ionic)な分解を起こすことで光劣化処理中のラジカル濃度が低下したことに加え,水分が材料組織を可塑化あるいは水素結合等による凝集を阻害したことにより,架橋形成が抑制された結果,見かけの劣化進行の遅延につながったものと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当研究課題で当初予定していた研究計画は既に十分達成したと言える.これまでの研究から光劣化を受ける熱硬化性ウレタン架橋樹脂の劣化メカニズムを実験的に解明し,マルチスケールで劣化描像をつきとめ,劣化環境の温度依存性・湿度依存性を明らかにすることができた.また.次年度以降に取り組む劣化予測モデルの構築へ向けた劣化反応パスの同定も既に終えている.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに整理した光劣化の描像に矛盾しないような劣化予測モデルを構築する.外界で想定される光劣化の主な機構は自動酸化劣化であり,その進展を予測することができる劣化反応kineticモデルの構築を試みる.劣化反応kineticモデルの構築には想定される全ての反応パスを列挙し,各反応パスに対応するkineticパラメータの同定を行う必要がある.光劣化に適用可能な劣化反応kineticモデルをフルスクラッチで構築することが困難であるために,まず劣化機構が比較的単純な熱劣化現象を記述するkineticモデルを構築した後に,構築されたモデルのパラメータを一部流用しつつ光劣化反応kineticモデルの構築にあたる.
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