研究実績の概要 |
全てを正確に記すのは難しいので, 適宜簡略化して記載する. 2020年度は主に次の3つを調べた: (1)古典的データXを量子状態に変換した場合の差分プライバシー (古典量子DP), (2)近似量子論における2状態完全識別, (3)一般確率論 (GPTs) の容量 (capacity) に関する主張. まず項目(1)について述べる. 以下, Xを別の古典的データに変換する場合の差分プライバシーを古典DPと呼ぶことにする. 2019年度はXが2値の場合を調べ, 古典量子DPは古典DPと本質的に変わらないことを明らかにした. そのため2020年度は, Xが3値以上の場合を調べ, 古典量子DPと古典DPが本質的に異なることを示した. 次に項目(2)について述べる. 量子状態の種類がある程度特定される場合に, 量子論の枠を超えて, 2状態の識別精度を調べた. 従って, この研究で得られる識別精度の限界は, たとえ量子論が少々間違っていたとしても有効である. 2019年度から2020年度にかけた研究で量子論に近いモデルを調べ, 2状態を識別するための十分条件を示した. 最後に(3)について述べる. 一般確率論は量子論や古典確率論を含む一般的な枠組みである. 以下, 一般確率論における1つのモデルを表したいときは, GPTと記す. 各GPTには容量という正の整数が一意的に定まる. QIT37の松本と木村の講演によると, separable ballという道具を使えば, 特殊なGPTの容量を導出できる. そのため, separable ballに関する主張 (主張S) を調べたいが, 現状それは難しい. そこで私は, 主張Sを弱めた主張を調べた.
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今後の研究の推進方策 |
項目(1)の研究により, 研究課題の主目的は達成された. 項目(1)に関しては, もはや数学的に難しい問題しか残っておらず, 残り1年で何か結果を出すのは難しい. そのため, 2021年度は特定の性質 (情報処理において有用な性質) に関する研究をする予定である. 純粋数学の手法は問題解決に役立つため, 並行して純粋数学の勉強も行う予定である.
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