AlNセラミックスは高硬度、電気絶縁性、高熱伝導率などの特性を有することから、ヒートシンクやマイクロエレクトロニクスデバイス作製用の基板に適している。AlNはGaNと近い格子定数と熱膨張係数を有するため、GaNのエピタキシャル成長用基板として期待されている。しかしながら、AlNセラミックスは焼結体材料であるため、従来の機械的な加工プロセスを適用した場合、AlN粒子間の結合強度が弱いため、表面から粒子が脱落する「脱粒」という現象が生じやすい。実際、加工後の表面には、脱粒により形成されたと推測されるピットが数多く存在し、高品質な平滑表面が得られていない。脱粒を防ぐために極低研磨圧力が不可欠だが、従来の機械研磨は極低研磨圧力下で殆ど進行できない。これらの問題を解決するため、当該研究グループはプラズマ援用研磨法(Plasma-assisted polishing: PAP)の適用を提案している。PAPにおいては、プラズマにより生成した反応ラジカルの照射により高硬度な表面を改質して軟質化する。つぎに、軟質砥粒や極低研磨圧力条件を用いて、軟質化した表面層のみを除去することで、スクラッチ痕や脱粒ピットが無い表面が高能率に得られる。前年度に、私はビトリファイドボンド砥石とCF4を含有するプラズマを用いたプラズマ援用研磨を適用することで、従来の機械研磨プロセスでは研磨できない極低研磨圧力条件下でも研磨が進行し、脱粒フリーな高品位焼結AlN表面を得たが、研磨メカニズムはまだ不明である。プラズマ援用研磨法における研磨メカニズムを解明するため、CF4プラズマ照射前後の焼結AlN基板とダイヤモンド砥粒との吸着力の変化をフォースカーブで評価した。CF4プラズマ照射により、AlN基板とダイヤモンド砥粒との吸着力は約3倍増加した。これは極低研磨圧力下でPAPも進行できる理由の一つだと考えられる。
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