研究課題/領域番号 |
19J20173
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
豊島 理公 筑波大学, 人間総合科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
キーワード | Loneliness / Social needs / Social isolation / Homeostatic motivation / Social preference / Social exploration / Lateral habenula / Rats |
研究実績の概要 |
社会的隔離によって活発になる脳領域を特定するため,神経活動のマーカーであるc-Fosタンパクを標的とした免疫組織化学的検索を行い,社会的選好性テスト中にどのような脳領域が活動しているのか観察した。社会的隔離によって活動が高まると報告されている外側手綱核のc-Fos発現量を観察したところ,集団飼育条件と比較して隔離飼育されたラットにおいて外側手綱核のc-Fos発現量が高い傾向がみられた。また,3チャンバー社会的選好テストの結果,隔離処置を行った実験個体の社会的選好性には大きなバラつきがみられることが明らかとなった。階層的クラスター分析の結果,選好性高群,中間群,低群の3つの集団に分けられた。選好性高群は未知個体を有意に長く探索していた一方で,低群ではケージメイトを有意に長く探索していた。この結果は,社会的選好性に対する社会的隔離の影響には個体差がある,つまり「孤独感」の感じ方は個体によってさまざまであることが示された。このバラつきが脳活動とどのように関連しているかを検討するため,免疫組織化学染色法を用いて外側手綱核のFos陽性細胞数を群別に計測した。社会的選好性高群,中間群,低群の間で外側手綱核のc-Fos発現量に有意差はみられなかった。また,外側手綱核のc-Fos発現量と社会的選好性テストでの各刺激個体に対する接触時間や選好率の相関を分析したところ,いずれの指標においても有意な相関関係はみられなかった。これらの分析の結果から,外側手綱核は隔離処置によって生起する嫌悪的な情動状態を反映した活動を示すものの,外側手綱核の活動は社会的動機づけを反映した行動と直接関連するものではなく,外側手綱核よりも下流の脳領域が隔離誘発性の社会的動機づけを制御している可能性が考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスの感染拡大により一時期実験に制限が設けられていた。また,社会的隔離による社会的動機づけ行動の指標としてケージメイトに対する接触行動を評価していたが,隔離処置によりケージメイトと引き離されることでそのケージメイトについての記憶を忘れてしまった結果としてケージメイトに対する接触行動が増加した可能性が学会で指摘され,隔離処置によって特定の他者についての記憶が失われるのかどうかを検証する必要が生じた。パンデミックや当初の計画と異なる実験系の実施などにより,研究計画の遂行に遅れが出た一年となった。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は,ホメオスタシス的社会的動機づけ行動における外側手綱核の役割を明らかにするために,化学遺伝学的手法を用いて外側手綱核の抑制及び活性化を行い,隔離処置によって高まる社会的動機づけが変化するのか検討する。また,外側手綱核の化学遺伝学的操作がその下流の領域の活動に影響を及ぼすのかどうか検討するために,免疫組織科学染色法を用いて背側逢線核及び腹側被蓋野の神経活動も調べる予定である。
|