研究課題/領域番号 |
19J20294
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
石川 遼太郎 総合研究大学院大学, 物理科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 太陽 / 光球 / 対流 / スペクトル線解析 / 乱流 / 深層学習 |
研究実績の概要 |
太陽光球面のダイナミクスは対流運動による粒状斑構造が支配していることが知られている。その一方で近年の磁気流体シミュレーションでは、粒状斑よりも小さな空間スケールの速度場が、磁場の生成や上空へのエネルギー輸送に貢献していることが示唆されている。一方でこのような小さな速度場を観測的に見積もる研究はあまり進んでいない。本年度はこのような微小スケールの運動を観測的に定量的に評価する手法の確立を目的とした。本研究で着目した手法は2つあり、(1)スペクトル線フィッティングを行い微小乱流項を見積もる方法と、(2)畳み込みニューラルネットワークを応用して画像から水平速度を推定する手法である。 (1)について、粒状斑が消滅する際にスペクトル線幅の一時的な増大が発生することを発見し、そのスペクトル線幅増大は約 0.9 km/s程度の微小乱流を示唆する可能性を示した。これは対流駆動の乱流が発生することを示唆しているが、乱流ではなく複雑な速度勾配などが原因の可能性もある。輻射輸送計算による検証を始めた。 (2)については、2次元の畳み込みニューラルネットワークで粒状斑構造を学習するだけでなく、時間方向の変化も含めた3次元の畳み込みを行うなどの工夫によって、より高い精度で推定が可能であることがわかった。この手法が完成すれば最新の観測データに適用することで、光球の速度ベクトル3成分全てを高い精度で定量的に評価することが可能になる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スペクトル線解析では、(i)微小乱流項ありと(ii)微小乱流項なしの2つの条件のもとで、観測されたスペクトル線のフィッティングを行った。特に粒状斑が消滅する際に発生する局所的・突発的なスペクトル線幅増大に着目したが、結果としてどちらの条件でも観測を再現することができた。しかし条件によって推定された大気の速度・温度構造が大きく異なる結果を得た。これは現在の観測データだけでは区別できないことを示しているが、形成高度の異なる複数のスペクトル線を組み合わせて観測・解析を行うことで区別できる可能性を示している。 CNNを使用した深層学習モデルの開発を行った。入力としては輝度分布および視線速度分布の時系列データを、出力としては推定したい水平速度場を設定した。マルチスケール性に対応したモデルにするため、大きさの異なる複数の畳み込みカーネルを並列したモデルを考案した。学習データとしてNon-local, Local, MURaMの3つの数値計算データを用意した。Non-localモデルに対しては、推定分布と真の分布の相関係数が0.96と非常に高い精度を示した。Localモデルについても、相関係数が0.90の精度を達成した。一方でMURaMモデルについては、相関係数は0.76に留まった。詳細な評価を行うため、新たな評価指標として「各空間スケールにおける相関係数」を定義した。平均的な相関係数では高い精度を示したNon-localおよびLocalモデルでは、大きなスケールでは相関係数が0.9を超えているものの、小さなスケールでは相関係数が0.2以下まで急落することが分かった。MURaMモデルについても、大スケールでは相関係数が0.8を超えるものの小スケールにかけて精度が悪くなっていた。これにより今後のモデル改善の指針を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
スペクトル線形成については、現在の観測だけでは議論を進めることが難しいため、3次元数値シミュレーションとの比較を検討している。数値シミュレーションにおいても粒状斑の消滅が確認されており、そのような場合に乱流は発達するのか、速度勾配は発達するのか、そしてスペクトル線がどのように変化するのかを調べることで、観測データの解釈が進むと考えられる。加えて、超大型太陽望遠鏡DKIST (Daniel K. Inouye Solar Telescope; 米国ハワイ)の科学観測が始まる。観測提案は採択されているため、観測が実施されれば、DKISTによる高空間分解能及び多波長観測データに対してスペクトル線フィッティングを行い、より詳細な光球の速度構造の議論が可能になると期待する。磁場が強い領域の近傍での線幅増大についても議論が可能になる。 水平速度場の診断について、まず現在までの結果を論文にまとめて出版する。小スケールの推定精度が向上しない根本的原因の一つとして、損失関数に平均二乗誤差を使用している点が考えられる。真のデータがパワースペクトルによって重み付けされている以上、誤差評価も同じように重み付けされており、小スケールの誤差の重要性が想定的に低く扱われている可能性がある。この点を考慮して小スケールの精度向上を目指す。また「ひので」衛星可視光望遠鏡やDKISTによる観測データに適用することで、太陽表面の水平速度診断を行う。
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