研究課題/領域番号 |
19J20331
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
大村 佳之 富山大学, 生命融合科学教育部, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 神経電気生理学 / 多脳領域多細胞同時記録 / 記憶 / 脳情報信号処理 / 海馬 / 場所細胞 |
研究実績の概要 |
これまでに記憶のメカニズムにおいて重要な脳波のひとつである Sharp wave ripple (SWR) が海馬の神経細胞間の相互作用により発生することや、このとき発生するバースト発火シグナルの伝搬が遠く離れた脳領域間の記憶情報転送に関与していることを数理モデルの解析から明らかにした。本研究の目的は迷路学習中のマウス脳から神経細胞電気活動を記録し、海馬から転送される記憶情報を内側前頭皮質の神経細胞集団が受信・解釈・統合する機序を明らかにすることである。そのためには海馬と内側前頭皮質を行き交う数十ミリ秒以下の時間スケールの神経電気活動のシグナルをとらえ、両脳領域から同時に脳情報の解読を行うだけの十分な数の神経細胞の活動を記録することが必要であった。しかしながら内側前頭皮質からは十分な数の神経細胞の活動が記録できなかった。そこで学習中に海馬と嗅内皮質で発生する高周波数脳波の相互作用(ripple burst)に着目し、海馬-嗅内皮質間で記憶情報が交わされる瞬間の脳情報解読を試みることにした。着目する脳領域を内側前頭皮質から嗅内皮質に変更してはいるが、海馬から離れた脳領域が記憶情報を受信・解釈・統合する機序を明らかにするという目標は変えていない。①自由行動下のマウス脳から神経電気シグナルを記録するための慢性埋込式マイクロドライブの開発、②マイクロドライブが記録した神経電気シグナルから個々の神経細胞の活動を同定し、統計処理を行うための解析ソフトウェア開発を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
◎マイクロドライブの開発 多くの神経細胞の活動を記録するためにはそれだけ多くの記録電極を脳に埋め込まなければならないが、同時にドライブの重量が増すため、マウスの頭部を固定した行動制限下での実験が行われることは少なくない。今回、海馬を標的とした 16テトロードと嗅内皮質を標的とした高密度多電極 Neuropixelsプローブのハイブリッド型マイクロドライブを開発し、合計で 448チャネルの記録電極を実装しながらもマウスが空間を自由に行動できるだけの軽量化を実現した。このマイクロドライブを使用して、自由行動下マウスのそれぞれの脳領域から同時に 100以上の神経細胞の電気活動を記録することに成功した。 ◎解析ソフトウェアの開発 448チャネルの記録電極から得られるデータは膨大であるだけに、解析作業の正確性・効率性・拡張性を高めることは重要である。そこでデータの解析工程を順に、①多数の神経細胞活動から単一細胞活動を分離するスパイクソーティング、②学習後の神経活動変化の統計解析、③計算結果の視覚化と結果の解釈の三つに分け、各工程を高性能計算機による自動化とパイプライン処理をすることにより、各工程にチェックポイントを置きつつ一連の作業を自動化した。迷路学習中のマウスが正解順路を選択するタイミングの海馬と嗅内皮質のコヒーレント状態の解析や、海馬と嗅内皮質で同期発生する高周波数脳波に含まれる高度に圧縮された脳内空間情報の解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
T字迷路の空間記憶学習中のマウス海馬と嗅内皮質の2脳領域から同時に神経細胞の電気活動を記録し、異なる脳領域間の神経細胞集団の活動が迷路学習によってどのように組織化されていくか明らかにする。具体的に以下の解析を行う。①マウスがT字迷路の分岐路で正解順路を選択するタイミングの2脳領域の脳波位相の相関が迷路学習のラーニングカーブとどのような関係にあるか調べる。②マウスが正解順路を選択し報酬を得たときに2脳領域で同期発生する高周波数脳波と場所細胞の集団活動パターンを記録し、ベイズ推定の手法を用いて脳内空間情報を解読する。異なる脳領域で表現される脳内空間情報の相関が迷路学習のラーニングカーブとどのような関係にあるか調べる。
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