研究課題
鳥類血液寄生原虫は世界各地に分布するベクター媒介性感染症であり、一部の鳥種において強い病原性を示すことが知られている。前年度に引き続き長距離を渡る鳥種からの血液寄生原虫検出を行い、鳥種による伝播地域や暴露される原虫相に違いがある他、一部の遺伝子系統は宿主転換を経たことが示唆された。同じ鳥種内でも捕獲地域による原虫相の違いが見られ、異なる渡り経路を持つ個体群である可能性が示唆された。鳥類傷病保護施設では、保護鳥類は通常暴露されない原虫種に感染する可能性がある他、新たな原虫種が移入される可能性がある。保護施設における血液寄生原虫感染リスク評価を行うため、前年度に捕集されたアカイエカ群の遺伝子解析および吸血源解析を行った。その結果、生態が大きく異なるアカイエカおよびチカイエカの季節的変化が確認された。また、捕集蚊は保護鳥類から吸血していることが示唆された。これまでに動物園や水族館のペンギン類または媒介蚊における鳥マラリア原虫の保有状況は報告されているが、双方の関係性は調査されていなかった。ペンギン類および蚊の両方を対象に経年的調査を行った結果、施設内で伝播が行われていることが示唆された。一方、周辺に生息する野鳥と蚊の間でも伝播が行われている可能性が示唆され、鳥マラリアの感染対策を行うためには飼育鳥類・蚊・周辺に生息する野鳥など様々な側面から調査することが重要であることが明らかとなった。ハワイ諸島では移入鳥種とともに持ち込まれた鳥マラリア原虫と鳥ポックスウイルスにより固有鳥種が絶滅した。小笠原諸島は同様に固有鳥種と移入種が混在しているが、感染状況は不明であった。渡り鳥によって新たな原虫が持ち込まれる可能性は低いと考えられた。また、両病原体は移入種と共に持ち込まれ、現在は諸島内で感染環が成立していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
長距離を渡る鳥種において前年度に引き続き血液寄生原虫の保有状況を調べることが出来、鳥種による原虫相の違いだけではなく、同じ鳥種内でも捕獲地域によって原虫相が異なることを明らかにすることが出来た。また、検出された原虫は別の鳥種から宿主転換を経た可能性が初めて示唆された。こちらについて現在論文を準備中である。また、傷病保護施設で捕集されたアカイエカ群全個体において遺伝子解析を行うことが出来、生態が大きく異なるアカイエカおよびチカイエカの季節象徴が異なることを明らかにすることが出来た。一部の個体で吸血源動物種の推定も実施することができ、保護鳥類が吸血されていることも示唆された。ペンギン類および蚊における経年的調査結果を解析し、施設内での伝播および周辺に生息する野鳥が関わっている可能性を示すことが出来、この内容について論文を発表することが出来た。加えて小笠原諸島の鳥類および蚊における鳥マラリア原虫および鳥ポックスウイルスの感染状況を明らかにし、渡り鳥による新たな侵入は稀であることや諸島内で両方の病原体が同時に伝播されている可能性を示唆することが出来た。こちらの成果について現在論文を準備中である。
鳥類の傷病保護施設で捕集された蚊の吸血源動物推定をPCR法にて引き続き行い、感染リスク鳥種について検討するとともに蚊の吸血嗜好性や季節性について解明する。特に、冬季における吸血活動について明らかにし、蚊の生態と関連付けて解明する。また、血液寄生原虫DNAの検出をPCR法にて行い、原虫保有状況および分子系統関係を明らかにする。分子系統関係を調べる際、同施設で過去に鳥類から検出された分子系統との比較を行う。鳥類から蚊への伝播動体を調べるため、鳥類の血液塗抹標本を用いて感染強度の計測を行い、感染強度と蚊および鳥類から検出された分子系統の関係を解析する。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
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