研究課題
電界励起によるWhispering Gallery Mode (WGM) 光共振器の開発に向け,本年度は,電界励起に最適な自己組織化マイクロ構造体の開発に重点をおいて研究を遂行した.キラルな側鎖を導入したPFBT(c-PFBT)の自己組織化により,球体という等方的な形状であるにも関わらず,内部に異方的ならせん分子配向構造をもつ秩序高いキラルマイクロ球体を作製した.自己組織化の経時変化を観察した結果,c-PFBTは液-液相分離によりポリマー濃厚液滴を形成し,続いてリオトロピック液晶相の発現によるらせん分子配向化,そして配向を維持したまま固体化する階層的な自己組織化が進行していることを見出した.さらに,マイクロ球体1粒子からの角度分解顕微円偏光発光(CPL)計測を行なった結果,マイクロ球体は内部の異方的ならせん配向軸方向に最大で0.5に至る非対称強度でCPLを発現し,らせん分子配向方向に対するCPLの角度依存性の実験的な実証に成功した.本成果は現在論文査読中である.c-PFBTによるマイクロ球体は,秩序高い分子配向により優れた導電性の発現が期待され,またCPL機能も併せもつ電界発光WGM共振器となることが期待できるまた,明らかになった液-液相分離によるπ共役ポリマーの自己組織メカニズムを適用し,現在様々なヘテロ接合型マイクロ球体を作製している.中でも,c-PFBTとホール輸送特性に優れたPVCzがヘテロ接合したpn接合型マイクロ球体の作製に成功した.これは申請書でも提案していた電界発光型マイクロ光共振器のデザインである.一般的な積層型の有機ELのコンセプトと同様に,異なるキャリア輸送特性の界面が形成されたことで,効率的なキャリア輸送と界面での再結合が期待できる.次年度は,これらの開発した電界励起に最適なマイクロ球体から電界WGM発光の実現を狙う.
2: おおむね順調に進展している
本年度はじめは,イオン伝導性ポリマー(PEO)とPFBTを混合したイオン導電性型π共役ポリマーマイクロ球体の作製を試みていたが,2種のポリマーは相溶性を示さず適切なマイクロ構造体が得られなかった.戦略的な自己組織化を行うためには,π共役ポリマーの自己組織化メカニズムの理解が必要であると考え,自己組織化プロセスに着目した研究を遂行した.その結果,現在では電界発光に最適といえる様々なπ共役ポリマーマイクロ球体の開発が進んでいる.特に,キラルな側鎖を導入したc-PFBTは本年度の研究の発展に極めて重要な材料であり,c-PFBTが形成する秩序高いらせん配向をもつマイクロ球体の形成メカニズムの解明により,π共役ポリマーの自己組織化が「液-液相分離」で進行するという新たな知見の発見に至った.また,このキラルマイクロ球体1粒子からの角度分解CPL計測により,これまで実験的に実証されていなかった分子集積体のCPLの異方性を初めて観測し,近年急速な発展を見せている超分子CPL材料開発の分野にも大きなインパクトを与える研究成果を得ることができた.また,本年度開発に成功したヘテロ接合型マイクロ球体は,c-PFBTの研究で明らかになったπ共役ポリマーの液-液相分離の自己組織化メカニズムにポリマー相分離の制御を組み合わせたことで得られた成果である.この作製手法によって得られたc-PFBTとPVCzからなるpn接合型マイクロ球体の電界励起には,従来の効率的な積層型有機ELのコンセプトをそのまま適用することが可能であり,目的達成に向けた進展といえる.本年度は,π共役ポリマーの自己組織化の原点に回帰したことで,電界発光に期待のもてる様々なπ共役ポリマーマイクロ球体の開発につながり,同時に第一著書論文の投稿にも至った.以上の理由を踏まえ,本年度の研究進捗としてはおおむね順調に進んでいると判断した.
これまでに,キラルなπ共役ポリマーによる円偏光発光性マイクロ球体やπ共役ポリマーの自己組織化メカニズム理解にもとづいたヘテロ接合型マイクロ球体の作製を達成した.2021年度はこれまでに得られたマイクロ構造体への電荷注入ならびに電界発光を実現する. キラルマイクロ球体はポリマー主鎖の秩序正しい配列によって良好な導電性と電界発光が期待できる.イオン液体を用いた電気化学キャリア注入などを利用し,電界発光を達成する. また,新たに作製したpn接合型マイクロ球体に対し,従来の積層型有機ELの原理に基づく電界発光原理を利用する.具体的には,ITO/PEDOT:PSS基板に対し,p型側の側面を設置し,n型側の側面へ微細なメタルニードルを取り付ける.こちらも,電圧印加時におけるマイクロ球体1粒子からの発光スペクトルを測定し,電界発光を実現する.さらに,電界励起レーザー発振の達成に向け,最大電流密度の向上を検討する.また,キラルマイクロ球体はその特異な分子配向に由来し,WGM共鳴発光のモードが分裂する現象が見出された.顕微分光装置下でWGM発光の角度依存性を評価し,さらなる光学特性を明らかにする.さらに,並行する形で,面不斉π共役分子の自己組織化に関しても興味深い現象を見出している.現在,速度論的な結晶成長を制御することによる特異な形状制御を実現しており,その形状を反映した様々な機能を探索中である.最終年度となる本年度は,これらの研究成果を随時まとめあげ,第一著者論文としてそれぞれの成果を発表する.
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Material Horizon
巻: 7 ページ: 1801-1808
10.1039/d0mh00566e