前年度までの研究成果から、植物は地上部―根間で栄養素(糖、及び陽イオン)の輸送を介し、それぞれの概日時計をカップリングさせることで、周期長の安定化を行っているのではないかと考えられた。そこで2振動子結合系を用いた数理モデルを構築し、解析を行うこととした。先行研究の結果を踏まえて、地上部および根の概日時計をモデルとした振動子を構築した。カップリングが正常である時、通常条件(無傷の植物体)が示すのと同様に、概日リズムが示すバラつきが小さく抑えられていた。一方で、地上部ー根間でのカップリングうち、一方向でも切断された場合、概日リズムが示すバラつきが大きくなることが確認できた。これは、前年度までの生理実験で示していた結果と一致するものであり、植物が栄養素の輸送を介して、地上部ー根間における概日時計のカップリングを形成することで、概日リズムの周期長を維持しているという仮説を支持している。また、追加実験によって、低カリウム条件下で育成した植物体に一過的にカリウムを補給することで概日リズムのばらつきが抑えられることが、予備的ではあるものの示している。このことは、導管液中に確認されたカリウムのリズムが概日時計の周期長を一定に保つ上で重要であることをより強く示唆する結果であると考えられる。ここまでの研究結果を基に学会、及び研究会で発表を行った。また、論文の投稿に向けての追加実験などを前年度に引き続き行っている。
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