研究課題/領域番号 |
19J20430
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
前野 優香理 東北大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | ドウモイ酸 / 生合成遺伝子 / 生合成中間体 |
研究実績の概要 |
今年度は、①ドウモイ酸の推定生合成中間体の安定同位体標識体の合成 ②ドウモイ酸生産生物の培養及び取り込み実験の2つの実験を行った。記憶喪失性貝毒ドウモイ酸(DA)は、珪藻類や紅藻類が生産する神経毒である。最近、DAによる生態系への損害が大きく、生産生物がどのようにDAを生産するのか、DAの生合成研究は重要な研究課題となっている。今年度は、DAの生合成経路の解明を目的として以下の研究①、②を行った。 ①ドウモイ酸の推定生合成中間体の安定同位体標識体 (ラベル化中間体1) の合成 先行研究において、ドウモイ酸には2つの異なる生合成経路が提唱されている。ドウモイ酸の生産生物は紅藻と珪藻の二種が知られており、生物種の違いによりドウモイ酸の生合成経路が異なることを推定した。そこで、一方の経路における推定生合成中間体の安定同位体標識 (ラベル化中間体1) を合成し、ドウモイ酸生産紅藻、及び珪藻への投与実験を行うことを試みた。ラベル化中間体1は、化学合成するには立体制御が困難な化合物であり、一部酵素反応を利用して合成することを計画した。発現させたDabCと化学合成した開環型化合物を反応させたところ、低収率ながら閉環型化合物が生成した。現在は酵素反応の効率を上げ、高収率で閉環型化合物を得るための条件検討を行っている。 ②ドウモイ酸生産生物の培養及び取り込み実験 ドウモイ酸生産紅藻C. armataの組織培養を行った。紅藻は共同研究者がサンプリングし、培地に入れて送付されたものを滅菌海水で洗浄し、紅藻培養用の培地に移した。しかし、培養期間中にバクテリアが増殖していたため組織の成長とともに腐食も進んでおり、それ以上の培養を継続することができなかった。Chondria属は紅藻類において組織培養が困難な属であることが知られており、C. armataを用いた取り込み実験は断念することにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでは、単離、構造決定、化学合成、LC/MS分析を中心とした化学的手法で研究を進めてきたが、新たに分子生物学的、生化学的手法を身につけ、報告されたドウモイ酸環化酵素のDabCの遺伝子をドウモイ酸生産珪藻Pseudo-nitzschia multiseriesからクローニングし、一般的な発現ベクターpET28で、DabCを発現することに成功した。さらに、DabCの基質認識の緩さを利用することで、ゲラニル基末端に多様性を持ったドウモイ酸類縁体の合成が可能となった。これは、今後研究を発展させる上で重要な成果である。 また、報告された生合成経路中には存在しないが、ドウモイ酸生産紅藻Chondria armataから単離された開環型ドウモイ酸類縁体について、これが環化反応に関与するのか調べるべく、その安定同位元素ラベル体を化学合成した。これを実際にP. multiseriesに投与したところ、ドウモイ酸には変換されなかった。これにより、C. armataから単離された開環型ドウモイ酸類縁体は、ラジカル環化反応時の副生成物であることが示唆された。 さらに、C. armataの組織培養及びラベル体投与実験を試みた。共同研究者から提供された生のC. armataを紅藻専用培地に移し、インキュベーター内で培養を行った。組織の成長は確認されたが、同時に微生物の混入による腐敗も進行しており、C. armataの組織培養は困難であることが分かった。 このように着実に成果を上げており、Journal of Natural Productに筆頭著者として論文を掲載することができ、万有仙台シンポジウムでポスター発表賞を受賞した。 以上の理由から、進捗状況はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
以下の①、②の研究を遂行する。 ①ドウモイ酸生合成中間体のラベル体投与実験 これまでの研究で、ドウモイ酸環化酵素DabCの発現に成功した。これを用い、ドウモイ酸の推定生合成中間体の安定同位体標識体 (ラベル体) を合成する。まず、DabCの開環型基質のラベル体を化学合成する。これはすでに合成方法を確立しており、今後量上げを行う予定である。次に、化学合成したラベル化基質を、DabCを用いて環化反応に供す。DabCはこれまでの条件検討により、大腸菌を宿主として発現させた際、培地に基質を添加するだけで酵素の精製をせずに環化反応が進行することが分かっている。この変換系を用いて、閉環型ラベル化生合成中間体を合成する。得られたラベル化生合成中間体を、ドウモイ酸生産珪藻の培地に添加し、ドウモイ酸へ変換されるか調べる。 ②珪藻Nitzschia navis-varingicaのドウモイ酸生合成遺伝子の同定 珪藻Nitzschia navis-varingicaから、ドウモイ酸生合成遺伝子は未だ同定されていない。これを同定すべく、RACE法を行う。まず、N. navis-varingicaのドウモイ酸生産量が最大となる時期を経時的な分析により確認する。次に、ドウモイ酸生産量が最大となる時期にN. navis-varingicaを収穫し、細胞からRNAを抽出する。そして、すでに同定されている珪藻Pseudo-nitzschia multiseriesのドウモイ酸環化酵素DabC、及び紅藻からすでに同定されているカイニン酸環化酵素KabCの相同性から、N. navis-varingicaのDabCの部分配列を推定し、RACE法に供す。これにより、未だ同定されていないNitzschia navis-varingicaのドウモイ酸生合成遺伝子DabCを同定する。
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