一部の珪藻類や紅藻類が生産するドウモイ酸(DA)は、哺乳動物の脳に発現するイオンチャネル型グルタミン酸受容体(iGluR)の強力なアゴニスト活性を有し、記憶喪失などの症状を引き起こす。近年、温暖化によりDA生産珪藻が大量繁殖し、DAの生合成は生態系へのリスクの点から注目されている。また、その特異な生理活性から、神経生理学の分野では研究用試薬として多用されている。本年度ははじめに、前年度に合成を達成した数種のDA類縁体の生物活性評価と、iGluRとのドッキングシミュレーションを行い、構造活性相関について調べた。生物活性評価にはマウスへの脳室内投与試験を採用し、行った。その結果、合成した類縁体のうち7’位にカルボニル基を有する類縁体を投与したマウスにおいて、激しい痙攣やスクラッチングなどの症状がみられた。次に、類縁体とiGluRとの結合様式について調べるため、iGluRのカイニン酸型受容体Gluk1とのドッキングシミュレーションを行った。結合モデルを確認すると、7’位のカルボニル酸素が受容体の489番目のチロシンのアミド窒素と水素結合を形成していた。このことから、7’位のカルボニル基が活性発現に重要であるという、生物活性試験の結果が理論的にも支持された。 今年度はさらに、代表的なDA生産珪藻であるNitzschia navis-varingicaからDAの生合成遺伝子の同定を試みた。委託によりN. navis-varingicaの全ゲノム解析、ORFの予測を行い、すでに報告されているカイノイド生合成酵素とのBLASTP相同性検索を行った。しかし、N. navis-varingicaのDA生合成遺伝子と推定される遺伝子は検出されなかった。相同性を指標とした探索は困難であることが予想されたため、今後はDA生産時期のN. navis-varingicaのRNAseqを行う必要がある。
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