研究課題/領域番号 |
19J20466
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岡 毅寛 九州大学, 医学系学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / 治療抵抗性 / オルガノイド / p57 / 腸管腫瘍 |
研究実績の概要 |
本年度は、腸管腫瘍オルガノイドを同所移植し、抗がん剤投与とDT (diphtheria toxin)投与によるp57陽性細胞ablationの治療効果を、生物発光システムを用いて確認した。無治療群と比較して、抗がん剤投与群、p57陽性細胞ablation群はどちらも腫瘍増殖抑制傾向を示し、これらの併用群は最も強力に腫瘍増殖を抑えた。抗がん剤投与群と併用群の腫瘍増殖率には統計的に有意な差があったことから、p57陽性細胞は抗がん剤抵抗性であり、治療標的として有望であることが示された。 腸管腫瘍はしばしば肝臓に転移し、それが生命予後に大きく関わることが知られている。そこで、腸管腫瘍オルガノイドを門脈から注入し、肝転移を模した系で治療効果を確認した。肝転移モデルにおいても、無治療群と比較して、抗がん剤投与群、p57陽性細胞ablation群はどちらも腫瘍増殖抑制効果を示した。まだサンプル数が十分ではないが、肝転移においてはp57陽性細胞ablation単独で、無治療群との間に大きな差が生じ、原発腫瘍以上に治療標的として有望なようである。 腸管腫瘍に関する先行研究において、Lgr5という分子を発現する細胞ががん幹細胞として考えられてきた。そこで、我々が注目しているp57陽性細胞とLgr5陽性細胞の関係を明らかにするため、既に樹立したp57-DTR-Venus quadruple mutant腸管腫瘍オルガノイドのLgr5プロモーター下に、DTRと蛍光タンパク質tdTomatoをknock inした、p57-DTR-Venus/Lgr5-DTR-tdTomato腸管腫瘍オルガノイドを作製した。現在、これを用いてp57陽性細胞とLgr5陽性細胞を同時にablationした場合の治療効果を検証中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに、p57-DTR-Venusアリルを有するマウスに対し、DT投与でp57陽性細胞をablationすると致死的であることが判明していた。そのため、当初予定していた自然発がんマウスでの、p57陽性細胞ablationによる治療効果の評価は不可能となった。本年度は、個体死を回避するために、p57-DTR-Venusマウスから作製した腫瘍オルガノイドをレシピエントに移植し、生物発光システムを利用して腫瘍の増減を評価した。抗がん剤単独投与群と、p57陽性細胞ablationの併用群を比較したところ、併用群の腫瘍増殖率が統計的に有意に抑えられた。このことから、p57陽性細胞は抗がん剤抵抗性で、治療標的として有望であることが示された。 当初予定していた系とは異なるが、p57陽性細胞が、がんの治療標的として重要であることを示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
がんの治療標的としてp57陽性細胞の重要性を示すことができたが、具体的にこの細胞集団がどのような特徴を持っているかの解明は不十分である。昨今注目されているsingle cell RNA-seqを用いて、p57陽性細胞の特徴づけを行う。この際、p57陽性細胞の単離はp57-DTR-Venus腫瘍オルガノイドの蛍光を利用して、FACSを用いて行う。 腸管腫瘍に関する先行研究では、Lgr5という分子を発現する細胞ががん幹細胞として考えられてきた。我々が注目しているp57陽性細胞との関係を明らかにするため、p57-DTR-Venus腫瘍オルガノイドのLgr5プロモーター下にDTR-tdTomatoをknock inした、p57-DTR-Venus/Lgr5-DTR-tdTomato腫瘍オルガノイドを作製している。今後はこれを利用して、各細胞集団をablationした際の治療効果を評価していきたい。
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