研究課題/領域番号 |
19J20486
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山下 聡 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 振動エネルギー移動 / タンパク質 / 分光学 |
研究実績の概要 |
化学反応は活性化障壁を超えて起こるため、エネルギーのやり取りを伴う。また化学反応の基礎理解のためには、凝集系のエネルギー移動機構 を理解することが重要であり、エネルギー移動機構の解明には、原子スケールでエネルギー伝播の仕組みを理解する必要がある。タンパク質内でのエネルギー移動機構を理解するためには、エネルギー移動を広い範囲の様々な位置で、系統的に空間分解して可視化する必要がある。しかしこれまでは、エネルギー移動の距離依存性や方位依存性に関する系統的な検証は行われていなかった。そこで本研究では、規則的な立体構造をもつヘムタンパク質を用いることで、エネルギー移動の系統的なマッピングを可能にし、タンパク質内エネルギー移動における 拡散特性や異方性を明らかにする。 昨年度は主にタンパク質内エネルギー移動における距離依存性に関して研究を行った。この研究ではαヘリックスと呼ばれるらせん状の規則的構造を利用して、エネルギーの流れを観測する位置をらせん状の1ターンずつずらした位置に配置することで、距離を系統的に変化させ、距離依存性を調べることができる。 昨年度は4種類の位置に対してエネルギー移動の観測を行った。得られた結果からエネルギー移動における距離依存的な振る舞いが観測された。またその振る舞いは、αヘリックスによって異なることを明らかにした。 これらの研究成果は、名古屋大学で行われた第13回分子科学討論会など国内外で発表を行った。特にニュージーランドにて行われた19th Time-Resolved Vibrational spectroscopy Conference ではその研究成果が評価され、Poster presentation awardをっ受賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タンパク質内エネルギー移動における距離依存性に関する研究では、予定を超える数の変異体測定が必要となったが、その測定はおおむね完了し、当初の予定に沿う進捗状況である。 また、方位依存性に関する研究では、変異体作成のためのテスト測定として、野生型のNP4に対する時間分解測定を完了した。また、その測定結果から、今後の測定に用いる変異体としてどの位置にトリプトファン残基を導入するかを決定し、そのプラスミドのコンストラクトの作製まで完了している。 さらに、時間分解測定だけでなく、トリプトファン残基の状態密度を用いてタンパク質内の過渡的なエネルギーを定量化する試みも行っている。この研究に関しては、トリプトファン残基の状態密度の計算等が完了しており、論文化に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
エネルギー移動における距離依存性に関する研究では、実験結果のさらなる解析を行い、得られた成果を論文にまとめる。その際必要であれば、シミュレーション研究を行っている研究室との共同研究の形をとる可能性もある。 方位依存性に関する研究では、まず作製したNP4変異体の効率的な試料精製方法の確立をおこなう。時間分解測定では、高純度で大量の試料が必要となる。そのため、測定に必要な試料を効率的に得るための試料作製法の確立が必要不可欠である。 また測定に際して光学系の最適化も行う。本研究で行う測定では、信号強度が非常に小さいため、光学系を最適化し、より質の高いスペクトルを得られる状況にすることが必要不可欠である。また試料作製および光学系は並行しておこなうことで、研究のスピードを速めていく。 試料精製法の確立および光学系の最適化が完了し次第、時間分解測定に移行していく。時間分解測定ではより詳細な議論のために、質の高いスペクトルを時間をかけて取得していく。また得られたスペクトルから方位依存性を調べる。また解析の結果を既存のモデルなどと比較することで、タンパク質内のエネルギー移動における異方性を議論していく。
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