2021年度はタンパク質内エネルギー移動における距離依存性と方位依存性を調べた.距離依存性に関しては,シミュレーションを行っている研究室との共同研究を行い,実験データをより詳細に議論した.シミュレーションによって得られたタンパク質構造をもとに,実験結果を解析すると,タンパク質内でのエネルギーの流れは拡散的であるということが明らかとなった.さらに定量的に議論するために,古典的な熱の拡散モデルと実験結果を比較した.その結果,タンパク質内のエネルギーの流れを古典的な熱拡散モデルによってうまく再現することができた.これはタンパク質内部が非常に密に原子が詰まった構造であることによると考えられる.この研究をまとめ,Journal of Physical Chemistry B誌に投稿した. 方位依存性に関して,前年度までで精製法を確立していた3つの変異体に対して,エネルギー移動を観測した.3つの変異体へのエネルギーの流れを比較すると,熱源分子から温度計分子へのエネルギーの流れはほとんど差がなかった.測定した3つの変異体では,熱源分子と温度計分子が接しており,その距離が同じである.エネルギーに差が見られなかったことは,方位に依存せず距離に依存依存してエネルギーが伝わっていることを示唆している.このことはタンパク質の原子が密に詰まっている構造に起因すると考えられる. これらの研究に加え,タンパク質内部の過渡的な温度を定量化する研究も行い,論文にまとめ,Journal of Physical Chemistry誌に掲載された.
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