研究課題/領域番号 |
19J20534
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
高橋 一輝 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | リュツォ・ホルム岩体 / 苦鉄質グラニュライト / ざくろ石 / ラマン分光法 / 流体包有物 |
研究実績の概要 |
本年度はまず研究するサンプルの選定と組織観察のために、薄片の作成および顕微鏡観察を行った。対象は東南極リュツォ・ホルム岩体のスカレビークスハルセン地域に産するざくろ石を含む苦鉄質グラニュライトとした。その結果として、①ざくろ石や角閃石の分解反応による様々な反応組織、②ざくろ石中に取り込まれたたメルトが結晶化してできたと考えられているナノ花崗岩/珪長岩包有物、③輝石を交代したような角閃石の脈、④石墨の脈、が観察された。また、マトリックスの硫化鉱物が主に黄鉄鉱から成るサンプルと黄銅鉱から成るサンプルの2種類があることがわかった。包有物として産するものは主に磁硫鉄鉱や黄銅鉱であった。 次に当初の計画を変更し、ざくろ石に包有される鉱物の残留圧力を用いた圧力計の適用を試みた。残留圧力はラマン分光計を用いて推定した。まず石英を用いた圧力計を適用したところ、残留圧力は負になり、ピーク圧力を求めることはできなかった。そこで、ざくろ石中の燐灰石を用いた圧力計を適用したところ、予察的な結果として800 ℃で約12 kbarという値が得られた。これは地質圧力計や相平衡モデリングの結果よりも高い圧力であり、ざくろ石成長時の圧力を記録している可能性がある。 さらに、ラマン分光計を用いてざくろ石中の流体包有物の組成を同定した。その結果、初生包有物・二次包有物ともに主にCO2流体であることがわかったが、H2Oから成る二次包有物が1個見つかった。また、CH4が初生包有物・二次包有物ともに含まれていることがわかった。さらに、炭酸塩鉱物(主に菱鉄鉱)および含水鉱物(パイロフィライト)が析出していることがわかり、元々CO2とH2Oの混合流体であったものがざくろ石と反応することで現在の流体組成になり、炭酸塩鉱物および含水鉱物が晶出したことが推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は主に流体包有物の研究を行い、変成年代も分析する予定であった。しかしラマン分光計を用いる機会を得たため、ラマン分光計を用いた圧力計の適用を主として行った。その結果として燐灰石を用いた圧力計が適用できることがわかった。これは本研究の目的の1つである変成温度圧力経路を推定することのためである。そして流体包有物の分析から、気相及び包有物中の鉱物の同定を行うことができた。研究成果については国際学会(国際ゴンドワナ-アジアシンポジウム)にてポスター発表を行った。従って、全体としてはおおむね順調に研究が進んでいると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
流体の挙動を明らかにするために、引き続き加熱冷却実験およびラマン分光法により流体包有物の組成や性質を解析する。加えて、角閃石や黒雲母、燐灰石、柱石といった鉱物の塩素およびフッ素濃度を電子線マイクロアナライザーで測定し、流体(塩水)の挙動を探る。特にマーブルおよび泥質グラニュライトと、その境界に発達する石灰珪質グラニュライトに含まれる鉱物の塩素濃度測定や流体包有物の分析を行うことで、二酸化炭素流体および塩水の挙動や役割を解析する。また、輝石を交代したような脈状角閃石のフッ素・塩素濃度を測定し、濃度分布から流体の浸透について考察する。さらに苦鉄質グラニュライト中の脈状の石墨や石灰珪質グラニュライト・泥質グラニュライト中の石墨の炭素同位体分析を行い、二酸化炭素流体の挙動を明らかにする。硫化鉱物にも着目し、変成作用時の硫黄や金属元素、硫化物メルトの挙動を推定することで、温度圧力経路や流体の役割についてさらなる考察を加える。
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