本年度は昨年度に引き続き、ざくろ石に包有される石英の残留圧力を用いた圧力計を適用した。残留圧力はラマン分光計を用いて推定した。ラマンスペクトルの差と歪みの関係を用いて残留圧力を計算することで、石英の異方性を考慮した。また、ピーク位置の確度や、振動・気温といった外因による変動の影響も考慮した。茨城県の西堂平変成岩で採取された泥質片岩3サンプルを分析したところ、600 ℃において5.7-9.3 kbar、6.1-8.6 kbar、5.2-7.1 kbarとなり、地質温度圧力計の結果(4.5-6.9 kbar・630-660 ℃)より高圧な条件も得られた。これは、累進変成作用時のピーク圧力を示していると考えられる。 また、西堂平変成岩の泥質片岩中の石墨のラマンスペクトルを測定した。およそ半分はD1バンドの無い完全に秩序化した石墨であったため、ピーク温度が炭質物の結晶化度に基づく温度計の高温限界である650 ℃近くであると確認された。さらに、東南極リュツォ・ホルム岩体(LHC)スカレビークスハルセン地域に産する苦鉄質グラニュライト中の石墨の多くも完全に秩序化した石墨であった。 次に、電子線マイクロアナライザーによるモナズ石の年代測定をLHCのルンドボークスヘッタ地域に産する泥質グラニュライトと苦鉄質グラニュライトの間に見られるざくろ石に富む層に適用し、流体が浸透した年代の解明を試みた。年代やY濃度、REEパターンを基に、Yに富みThに乏しいコア(約600 Ma)とYに乏しくThに富むリム(約550 Ma)を持つ粒子の存在を確認した。その後、より正確かつ詳細な年代を得るために、バックグラウンド位置や標準試料、干渉補正、波高分析条件について検討した。また、年代誤差を計算する手法の検討を行い、初期鉛を無視できると仮定した場合の年代と元素濃度の関係式を近似することで計算するようにした。
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