研究課題/領域番号 |
19J20541
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
比留間 真悟 北海道大学, 情報科学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 電磁界解析 / 有限要素法 / 均質化法 / 低次元化 / モデル縮約 / Cauer回路 / Lanczos法 / Dowellの式 |
研究実績の概要 |
2019年7月にParis, Franceで行われた国際学会において、「複素透磁率を用いた均質化法」についての研究と「複素透磁率を用いて均質化された系の時間応答解析法」について研究の2件の発表を行った.複素透磁率を用いた均質化法では従来は難しかった任意形状の導体の複素透磁率の連分数表現を簡潔に求めることが可能になった.これにより従来手法よりも幅広い系に均質化法が適用可能となった. また、2019年10月には大規模な係数行列を含む伝達関数の連分数近似を求めるCVL (Cauer via Lanczos)法に関連する論文がアクセプトされた.本論文ではMaxwell方程式から縮約モデルとしてCauer回路を得る手法と伝達関数の有理関数近似を求める手法との関係性を明らかにし,伝達関数を連分数近似する手法を新たに提案した.これにより任意の系の有限要素方程式から低次元モデルとしてCauer回路を得ることが可能になった. さらに2020年3月には電気学会全国大会(開催中止)に「均質化された変圧器巻線の拡張等価回路の提案」についての原稿投稿を行った.本手法では従来用いられてきた古典的な変圧器巻線の等価回路を渦電流による損失を考慮することができる形に拡張した.巻線の複素透磁率を用いることにより,古典的渦電流損失推定手法であるDowellの式を高周波数まで精度よく拡張することができる.この拡張された推定式を用いることで変圧器巻線の等価回路を拡張している. 上記の研究は申請者らが提案する「均質化された電磁機器の低次元モデル生成による高速時間応答解析法」の一環として行われたものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在までの研究の進捗は当初の計画以上に進展している. 提案手法では系の低次元化を軸に有限要素方程式,均質化された系の有限要素方程式,ユニットセルの有限要素方程等の様々な方程式の低次元化に成功している.これにより,まずユニットセルの有限要素方程式から低次元化された複素透磁率を得ることができる.この複素透磁率により系を均質化法により低次元化し,さらに均質化された有限要素方程式を低次元化手法により等価回路にすることが可能になる.このように階層的に未知数を削減することが可能になり,効率のいい解析が可能になった.また提案手法により得られた低次元化されたモデルは元の系よりも未知数が大幅に少なくなり,低次元化されたモデルの方程式により求められた損失などの値は元の系により得られる値の精度と遜色がないことが特徴となっている.さらに低次元化されたモデルはMatlab等のシミュレーションツール上で実現可能となっており,時間領域解析を高速に実行することが可能である. 当初の計画では提案手法を変圧器巻線の有限要素方程式へ適用することを想定していたが,提案手法により得られる均質化複素透磁率によって古典的渦電流損失推定手法であるDowellの式を高周波数まで精度よく拡張できることが判明し,それにより古典的な変圧器巻線の等価回路を巻線の渦電流による損失を考慮できる形に拡張することが可能になった.これは当初の計画にはなかった成果である.渦電流を高精度に推定する簡易な手法は多くの技術者が必要としており,重要であるといえる.
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今後の研究の推進方策 |
シミュレーション上では非常に多くの成果を得ることができているが,提案手法をさらに有効なものにするためには,電磁機器に多く用いられている電磁鋼板や圧粉磁心といった非線形特性を有する材料のモデリングへの応用が挙げられる.これらに適用する際の障害としては非線形特性を有するために幅広い周波数と電流位相に対して簡易な低次元モデルを構築することが難しいという点が挙げられる.これまでに低次元モデルとして得られたCauerの初段のインダクタンスに磁気飽和による非線形特性やヒステリシス特性を与えるといった手法が検討されており有効性が示されている.これらについてさらに検討を深めることが必要とされており,また更に簡易な手法も望まれている.また材料をモデリングした後の有限要素解析の計算コストも大きいため問題となっているので,これについても計算コスト低減が求められている. また,重要な観点として実験による提案手法の妥当性の検証が必要とされている.現在までの進捗によりDowellの式を高周波数領域まで精度よく拡張することができたが,これが実験とも整合する結果といえるか検証が必要である.そのために変圧器巻線について実験・シミュレーションの双方で損失解析を行い比較することを検討している. 今年度は新型コロナウィルスのパンデミックの影響のため国際会議の開催が危ぶまれているため,参加が可能か現時点では判断ができない.参加可能でない場合には論文投稿という形で研究成果を発表することを予定している.
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