細菌によって細胞外に放出されたシグナル物質は細胞間コミュニケーションを活性化し、細菌の重要な生理活性を制御することが広く知られている。先行研究において、細胞間コミュニケーションは水の浄化活性を制御することが報告されていることから、細胞間コミュニケーションの制御方法を確立することで排水処理の効率化を図る可能性が見出された。 本研究課題において用いる土壌細菌Paracoccus denitrificansは排水処理の浄化プロセスである脱窒のモデル細菌として知られている。昨年度までの研究により、本菌はDNAストレス条件下で膜小胞とともにシグナル物質を細胞外に放出し、細胞間コミュニケーションを活性化することが明らかとなった。そこで、今年度は、膜小胞産生が誘導されるDNAストレス条件下でのDNA・RNA発現解析を進めるとともに、シグナル伝達を担う膜小胞のさらなる解析を行った。 今年度は、膜小胞のタンパク質プロファイル解析を行った。その結果、産生経路が異なる膜小胞はその細胞膜の組成も異なることが示唆された。異なるメカニズムで産生された膜小胞の有する性質の違いは、細菌間でのシグナル物質の伝達性に影響を与えることが大いに予想される。さらに、昨年度までに作成した蛍光レポーター株を用いて、膜小胞と細胞間コミュニケーションのシグナリングを同時可視化する観察系を構築することに成功した。この顕微鏡の観察系を用いることで、産生経路に即した膜小胞のシグナル伝達を解析することが可能となり、膜小胞の産生経路に即した細胞間コミュニケーションの活性評価を行うことができるようになったと言える。また、これらの研究成果を、原著論文で報告するに至った。
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