研究課題/領域番号 |
19J20564
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
唐 超 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | テラヘルツ光源 / 非線形光学結晶 / 層状半導体 / ファンデルワールス結晶 / 結晶成長 |
研究実績の概要 |
本研究の現段階では、液相成長により欠陥や多形混在がなく、THzと近赤外の光吸収が小さいInSe系カルコゲナイドを数mmの厚さで成長して、ドーパントを混入して、光学特性を改善した。現段階の研究結果として、以下の三つを挙げられる 1.InSe結晶の電気学特性とテラヘルツ領域光学特性の考察:テラヘルツ時間領域分解スペクトル(THz-TDS)を用いてTDM-CVPで成長したInSe結晶の透過率を測定し、誘電率を導き出し、その結果をDrudeの理論で分析し、結晶のキャリア密度と移動度を計算した。ホール効果測定を用いて測定したInSe結晶のキャリア密度の温度依存性と対照した。電気測定(ホール測定)と光学測定(THz-TDS)で出した結果はほぼ同じであり、InSeのテラヘルツ領域での吸収は自由キャリアによる現象であることを判明した。 2.第二次高調波発生(SHG)スペクトルの測定:InSe系結晶の非線形感受率を測定するため、SHG強度の波長依存性は不可欠である。今までファンデルワールス結晶のSHG波長依存性が知られていないため、図1に示すSHGスペクトルを実測する光学系を組み立てた。この光学系は励起光とSHG光の強度を同時に測定できる。構築されたシステムを用いて、InGaSeなどのファンデルワールス結晶のSHG効率を測定し、第二次非線形感受率を計算した。 3.蒸気圧制御徐冷法による結晶成長:現在使われている温度差液相成長法(TDM-CVP)では、溶液の温度差による濃度勾配でセレンを過飽和させる。濃度差拡散で提供された成長駆動力が小さいため、成長速度が限られている。故に、外部降温で過飽和度を導入する徐冷法による成長を試した。セレン蒸気圧を制御しながら、2℃/時間の冷却率で、液相線付近で成長を行った。成長温度により、72時間の短い成長時間で高品質なInSeとIn2Se3単結晶の成長を成功させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
まず、本段階の研究は計画通り、遷移金属(Ti、Mn)をドープされたInSeの低温液相成長を成功させた。ドーパント由来のテラヘルツ光学特性と電気特性の変化を明らかにした。そして、光学システムを組み立て、GaSeのSHGスペクトルを測定した。 さらに、現在使われている温度差液相成長法では、温度差で物質の濃度勾配を生じ、拡散で結晶成長を駆動している。TDM-CVPで提供する成長駆動力が小さいため、成長のスビートが制限されている。様々な成長条件を模索し、一定の冷却速度内での降温は結晶の質に影響を与えないことが明らかにした。すなわち、温度差液相成長と同時に適切な降温スビートで冷却すると、結晶の質を確保しながら高速に結晶成長を行うことが可能になる。新しい方法を用いて従来法より7倍ほど成長時間を短縮させた。 故に、現段階の研究は当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
より良い光学特性を持つカルコゲナイド結晶を成長させることと、結晶の非線形光学特性を考察することを今後の研究課題としたい。更に、成長した結晶を用いてテラヘルツ発生と検出システムを構築することは次の目標とする。 まず、徐冷法で成長したInSe結晶の特性評価をする。具体的には、InSe化学量論比からの偏移の精密測定を行う。汎用のエネルギー分散型X線分析(EDX)などの方法は0.1%以下の組成分析が出来ないため、フォトルミネッセンスの不純物測定、または準禁制x線回折ピーク分析で間接に求める。 また、ゲルマニウムとスズなどのIV族の元素をドープし、結晶にディープエネルギーレベルを導入し、キャリア密度を制御する。電気特性によるテラヘルツ光学特性を改善し、テラヘルツ発生効率の高いInSe系結晶を成長する。
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