研究課題/領域番号 |
19J20573
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
横山 実紀 北海道大学, 文学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 忌避施設立地問題 / 合意形成 / 無知のヴェール / 段階的意思決定 / 事前合意 / 手続き的公正 / ゲーミング |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、忌避施設立地問題の合意形成促進手法をゲーミング実験及び仮想シナリオ実験により明らかにすることである。忌避施設立地問題とは、公益のためには必要だが、施設建設によって一部に負担が偏るという負担分配の不公正のために合意形成が困難となる問題である。 忌避施設立地問題の合意形成には利害当事者の議論による論点整理と、市民による多元的な公益的観点からの評価が必要である。しかし、利害が明らかになると地域住民が決定後に反発する。そこで、候補地が絞られる前の、誰もが当事者となる状態、すなわち無知のヴェール下で事前に決め方に合意する必要がある。規範研究として議論されてきた無知のヴェールをゲーミングとして観察可能な人々の相互作用に落とし込み、実証的に検討する。2019年度は、無知のヴェール下では利害に偏らない公益的な観点から合意形成でき、参加者の認識も無知のヴェール下の議論を経ることで、利害に偏らない市民を含む様々な主体が関わることでよりよい決定に近づくという認識に変化したことをゲーミング実験から明らかにした。 また、忌避施設立地問題は一箇所の地域に負担が偏る不衡平が問題となる。社会全体の視点から功利主義的に考えると、どこか一箇所に建設することが合理的と考えられるが、立地地域に負担が偏るという不衡平が生じる。そこで、一箇所集約という功利主義的な考えだけでなく不衡平の是正という観点から検討を試みた。2019年度は仮想シナリオ実験を用いて、負担を負うのが回答者の住む地域一箇所かその地域を含む複数箇所かで不衡平感や受容に違いがあるか検討し、複数箇所のほうが一箇所よりも不衡平感が低く、手続き的に公正で受け入れられることを明らかにした。 忌避施設立地問題における負担の偏りや固定化した立地地域とそれ以外の地域の関係に対して、無知のヴェールや不衡平是正という観点から実証的に検討し、その有効性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、忌避施設立地問題における固定化した受益-受苦関係を崩し、無知のヴェールを適用した段階的意思決定が合意形成を促進する効果を、公正の観点からゲーミング実験及び仮想シナリオ実験を用いて実証的に検討する。2019年度は1) 無知のヴェール下の合意形成に関するゲーミングを作成し、予備実験を繰り返し行ってから本実験に移る、2)仮想シナリオ実験に関しても予備実験を行い、国内外の学会で発表した上で研究の改善に生かすと計画していた。 現在までに、無知のヴェールが決め方の事前合意とその決定に有効である可能性をゲーミングにより明らかにした。ゲーミング研究の結果については、 ”Simulation & Gaming: Through times and across disciplines, past and future, heritage and progress”に採録された。また、Springer の”Lecture Notes in Computer Science”にも選定され、刊行予定である。また、忌避施設立地問題が持つ一部への負担の偏りという点に着目し、負担を複数箇所に分担することで不衡平感が緩和し、受容が高まるかについて、全国の成人を対象に仮想シナリオ実験を行い、その有効性を明らかにした。社会全体の視点から功利主義的に考えると、どこか一箇所で集約することが合理的と考えられるが、それよりも複数で負担分担するという不衡平の是正が社会的受容に繋がることを明らかにした。以上の結果の一部について日本心理学会第83回大会において発表し、特別優秀発表賞を受賞した。追加分析などを行った結果については原著論文として査読付き学会誌に投稿中である。 本実験の実施並びにProceedingsや国内学会誌への投稿といった状況を鑑み、当初の計画以上に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
忌避施設立地問題において、無知のヴェールが決め方の事前合意とその決定に有効なことや、負担の複数箇所への分散が受容を高める可能性が明らかになった。しかし、決め方の事前合意において、人々の相互作用過程から効率性よりも不衡平是正を重視した価値に基づく決定が創発し得るのか、その成立要件はまだ十分に明らかではない。そこで、決め方の事前合意における人々の相互作用過程と、集団としてどのような決定に至るのかをゲーミング実験を用いて検討する。参加者は、忌避施設立地地域をどのように決めていくかを話し合う場面で、平等原理(すべての地域で引き受けるべき)、効率性(一箇所で管理すべき)、地域間公正(過去に忌避施設を引き受けた等)のような複数の価値基準の中で何を重視して決めるべきかという観点から議論する。議論では、各地域の持つ社会的な特徴(例:人口密集地、温泉観光地等)を基に議論するグループと、どの地域か不明、すなわち利害関係が不明な状況(無知のヴェール下)で議論するグループに分かれる。心理変数と社会(ゲーム)構造要因の連関分析や、自由記述の定性的分析によって無知のヴェールの有効性と集団の決定を捕捉する。 また、前年度までの研究から、無知のヴェールは決め方の事前合意では有効だが、立地地域決定においては多段階参加など別の決定枠組みが重要となる可能性を示した。NIMBY問題を考える際には、忌避施設立地の必要性という前提を受容できるか、その決め方をどうするかという方針で受容できるか、そして自分の地域が候補地になったら受容できるかという三段階を考慮する必要がある。そこで、合意形成プロセス全体のデザインを考慮し、無知のヴェールを適用した決め方とそうではない決め方では、適用した決め方のほうが公正で受け入れられると評価され、方針段階での評価が立地受容にも影響するという仮説を仮想シナリオ実験を用いて検討する。
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