研究課題/領域番号 |
19J20575
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
谷川 輝 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | B中間子 / CP対称性の破れ / 半導体検出器 |
研究実績の概要 |
本研究では、B中間子のB0→KS KS KS崩壊過程における時間依存CP非対称度の測定による新物理の探索を目指す。Belle II実験ではB中間子の崩壊点位置からその崩壊時刻を得るが、崩壊点の再構成には娘粒子の飛跡情報に加えて、既知のビーム衝突点形状を制約として用いる。崩壊時間情報を用いた解析では、崩壊点測定の応答関数(分解能関数)を正しくモデル化することが重要である。2019年度は、B0→J/ψKS崩壊過程のシミュレーションを用いて分解能関数の研究を行った。様々なフィットアルゴリズムと衝突点制約を用いて崩壊点を再構成し、それぞれの手法について分解能の振る舞いを調べた。 衝突点の制約は崩壊点位置の測定精度を向上させる一方、バイアスを生じうることが前Belle実験の研究から知られている。本研究の結果、Belle II実験では衝突点とビームエネルギーの非対称性が小さくなったことによってこの影響が深刻化し、Belle実験の解析手法ではこれを十分に解消できないことがわかった。 ただし、B中間子がビーム軸から横方向に飛ぶ影響を考慮して、衝突点による制約を適切に緩めることで、バイアスを和らげることができることを示した。 一方でBelle II実験では衝突点の小ささを活かし、全く新しい手法で崩壊点への制約を与えることができる。この手法では、再構成したB中間子の運動量方向の情報を衝突点情報と合わせることで、事象ごとに崩壊点への制約を定義する。従来の制約で問題となっていたバイアスの影響は新手法では小さいことを確認し、新手法の有効性を示した。 また、目標とする崩壊過程の解析には、KS粒子の再構成に中心的な役割を果たすシリコンストリップ崩壊点検出器を高い性能で運転することが望ましい。そのために検出器のうけるビームバックグラウンド量を測定し原因を突き止めることで、加速器の運転状況の改善に貢献した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H31年度は、ビームの衝突点形状による制約がB中間子の崩壊点の再構成に及ぼす影響について多くの時間を割いて研究した。Belle II実験では、前Belle実験に比べてビームが非常に薄くなり交差角も大きくなったことで、衝突点形状は劇的に変わっている。解析手法の面においても大きな変更が必要になると予想されていた衝突点の取り扱いについて深く理解できたことは大きな成果である。 また、Belle II実験は立ち上げ後まもなく、ルミノシティ向上のための調整により加速器の運転状況が日々変化していく段階にある。これに伴って検出器の置かれるビームバックグラウンド環境も変化しており、バックグラウンドについて評価し加速器側にフィードバックすることが、今後の加速器の運転状況を改善することにつながる。解析に必要なデータを安定に取得するために、現在までのバックグラウンド環境の理解とこれからの見通しを立てることができた。 以上の理由から、本研究はおおむね順調に進んでいると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、B0→J/ψKS崩壊過程を用いて分解能関数についての研究を進めてきたが、分解能関数として汎用性のあるモデルを採用しているため、他の崩壊過程についてもこれを拡張することができると見込んでいる。本研究の目標であるB0→KS KS KS過程についてモデルを適用し、その妥当性を確認する。 加えて、同崩壊過程を選択的に再構成し、背景事象を最小限に抑えるための再構成アルゴリズムの開発についても着手する。
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