本研究は磁気デバイスにおける磁化のダイナミクス,特に磁気緩和と呼ばれる物理現象に焦点を当てた理論研究である.磁気緩和を人工的に制御することでデバイスの性能向上が期待されている.一方で,緩和現象はデバイスの環境に大きく依存することが知られており,人工的に制御するために必要な知見が現状では不十分であるという課題が存在する.本研究は,環境,特にデバイスの構造・温度と磁気緩和現象の関係性を定量評価することで,物理的知見を深めてデバイス開発を理論的立場から支援することが目的である. 本目的を達成するため,デバイスの構造・温度を反映した磁気緩和の評価手法の構築・実装・実行を行った.磁気緩和のデバイス構造依存性に関しては,強磁性体の持つスピン軌道相互作用に起因する内因的な緩和と,強磁性体から非磁性体へのスピンの空間移動に起因する外因的な緩和の双方を評価することで対処した.温度依存性に関しては,鞍点近似を用いた電子状態計算と,温度効果をスピン揺らぎとして統計力学を用いて処理することで自己無撞着に計算する枠組みを構築した. 第一原理計算による電子状態計算と構築した評価手法を利用した結果,磁気緩和のデバイス構造・温度依存性は先行の実験結果を定性的に再現できるものが得られた.また,磁気緩和の温度依存性とスピンの遍歴性との関係性に関して,磁化の温度依存性の評価結果を踏まえて,物理的に議論することに成功した.これらの研究結果は磁気緩和の物理的知見を深め,磁気デバイスの開発に関して大きく貢献したものであると考える.
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