研究実績の概要 |
本研究は、三端子構造を有する単分子接合を創成し、光応答性単一分子トランジスタを実現することを目的とする。単一分子トランジスタの基礎構造には、3',5'末端にチオール修飾を施し作製された三端子DNA単分子接合を活用した。最終年度となる本年度は、1、2年度に確立した三端子DNA単分子接合の伝導度計測を実施した。加えて、本研究にて開発した三端子構造に特有な自己修復特性が見出され、従来型の単分子素子に比べ機械的安定性が飛躍的に向上した。 本年度は、三端子DNA単分子接合の伝導特性の制御に着手した。具体的には、鎖長の異なる三端子DNAに対する電流-電圧計測を実施し、Simmonsモデルに基づく伝導軌道のエネルギーの評価を行った。伝導軌道のエネルギーはトランジスタとしてのDNAのゲート電圧を決定する重要な因子である。結果として、核酸塩基間のπスタッキングによる伝導軌道の非局在化により、軌道エネルギーは鎖長に対して減少し、長鎖DNAにおいて高い伝導度が実現することが明らかになった。従って、πスタック軌道によるエネルギー障壁を鎖長により調節可能であることが示された。 さらに、本研究にて開発した三端子DNA単分子接合は、既存の単分子接合とは異なり、高い機械的安定性を有することが明らかとなった。既存の単分子素子は数nmの揺らぎで破壊されてしまう点で耐久性に欠ける一方、本研究の三端子DNAトランジスタは30 nmの掃引試験にも耐久できる高安定性を示した。追加で実施された力計測や分子動力学計算によって、この特性はDNA塩基対の自己修復機構によるものであることが解明された。したがって、三端子DNA単分子接合の構造を基礎とすることにより、従来に比べ極めて高安定な単分子素子をトランジスタに限らず開発することが可能となった。
|