研究実績の概要 |
本研究の目的はコウモリ類のエコーロケーションの進化的起源を解明することである. エコーロケーションを行うコウモリ類はその発信器官に基づき, 口で超音波発信を行う「ヤンゴコウモリ類」, 鼻で行う「キクガシラコウモリ類」, 舌打ちにより行うオオコウモリ類内の「ルーセットオオコウモリ類」に分けられるが, これらのエコーロケーションが共通祖先から由来したものであるのか, 3グループ間で独立に獲得されたものなのか長年論争が続いてきた. 初年度はコウモリ類の超音波受信に用いられる蝸牛の発生過程をマイクロCTスキャンを用いた三次元構築によって記載した.蝸牛は音波周波数を受信する感覚毛が備わっている軟骨部とその周囲の骨組織である側頭骨岩様体により構成されるが, 30種のコウモリ類,5種の他哺乳類 (ジャコウネズミ, アムールハリネズミ, ハツカネズミ, カニクイザル, ニホンザル)を対象に軟骨部と骨組織の形態形成を種間比較した. 結果として, 超音波を口から発信するヤンゴコウモリ類, 鼻から発信するキクガシラコウモリ類の間で蝸牛形態形成の方向性が異なっていること, エコーロケーション能をもたないオオコウモリ類と他哺乳類の間に発生変異が検出されなかったことから, 化石記録から支持されるオオコウモリ類がエコーロケーションを失ったとする「一回起源説」は棄却され, 口発信型と鼻発信型とで収斂進化したとする「複数回起源説」が支持された. 初年度で超音波受信器官である蝸牛発生の比較は完了し, 本研究の中軸の命題である「コウモリ類のエコーロケーションの進化的起源」について有力な証拠をもって決着させることができた. 初年度の結果は論文にまとめ, 既に国際誌へ投稿済みである.
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は, これまで申請者が行ってきたコウモリ類の胎子標本を対象に発生ステージ表の作成を行うとともに, 超音波発信に用いられる喉頭の発生過程の記載も行う予定である. 前者については初年度の夏季 (7-8月)を目安に国際誌へ論文投稿することを計画している. 後者についてはすでに喉頭のマイクロCTスキャンが完了しているため, 冬季より解析をスタートさせる予定である.
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